群雄割拠のショート動画市場、中国版TikTok「ドウイン」を生んだ差別化戦略とは?
ロゴは24歳のデザイナーが作った。彼はロックミュージックが大好きで、コンサートのあと耳のなかで音が鳴り続ける感覚と、ショーの最後に素晴らしい照明の演出を見たせいで目に光が残る感覚から発想を得たそうだ。彼は音符にヒントを得たロゴを下書きしたあと、GIF(ジフ)アニメーションジェネレーターにかけ、電磁波を加えた。 GIFにより40のフレームを作りだし、デザイナーが最もスッキリと見える1枚を選び、ロゴに薄いエレクトリック・ブルー(ティックトック内部のグラフィックスタイルブックでは“スプラッシュ”と呼ばれている)の色と濃いピンク(ラズマタズという愛称)の影を加えている。 こうしてドウインは生まれた。 2016年9月、数か月にわたる開発期間を経て公開の準備が整った。当初、ドウインは小刻みな動きを見せ、大きな波は起きなかった。だが、バイトダンスの社員たちは手を加え続けていた。バイトダンスは社内に、拡張現実(AR)のスタンプやフィルターの開発に貢献するAIラボを設置した。 これによって、ユーザーが何度も戻ってきてくれることが期待できた。ドウインは、とりわけずばずばと物を言うミスター・シュエというユーザーと交流をもった。彼はカナダの大学に通う学生で、VPN(仮想プライベートネットワーク)を使って中国専用のアプリにアクセスしていたが、ドウインの音声と動画に若干のずれがあることに不満をもっていた。 2017年の中頃には、状況が上向き始めていた。ドウインが新し物好きな人たちと共同で進めたハッシュタグチャレンジのいくつかは、このプラットフォームの熱心な2人のユーザーによって進められた“シャワーダンス”と呼ばれるものをはじめ、メインストリームになりかけていた。 「ユーザーにアプローチするこうした機会をつくるのはとても重要なことなんです」とケリー・ジャンは話す。まだ初期の頃、バイトダンスは非常に熱心なユーザーをオフィスに招き、おしゃべりをしたり、一緒に動画を作ったりしていた。こうしたクリエイター中心のアプローチが推進力となり、間もなく西側諸国にティックトックが登場することになる。
クリス・ストークル・ウォーカー/村山 寿美子