スピード狂、麻薬密売、薬物乱用…カントリーの旗手、エルヴィー・シェーンが語る波瀾万丈の人生
刑務所にまつわる記憶、労働者階級の苦闘
留置場で一夜を明かした出来事を除けば、シェーンは一度も服役経験がない。しかし楽曲「215634」でシェーンは、牢の中の寒々とした雰囲気を巧みに描いている。エリック・チャーチの「Lightning」やジョニー・キャッシュの「San Quentin」と並ぶ、偉大なるプリズン・ソングの1曲と言えるだろう。「俺の名前はもはや俺の名前ではない。ここでは“215634”と呼ばれるのさ」とシェーンは歌う。 シェーンによると「215634」は、「同じ山間の近所に住んでいた」幼なじみがモデルだという。その友人は刑務所から出たものの、再び服役することになる。仮出所中に、自分の身を守るため、人を撃ってしまったのだという。 「友人が付き合い始めた彼女の元カレというのがイカれた奴で、友人のことを殺してやると脅してきたらしい。そこで友人は、護身用に闇のルートから銃を仕入れた」とシェーンは言う。「ある日、彼女の元カレがドアを蹴破って家に押し入ってきた。だから俺の友人は引き金を引かざるを得なかった。正に曲で歌ったとおりさ」。 「ある日、刑務所にいる友人と電話で話した」とシェーンは続ける。「“俺は名前を変えられちまった”と彼が言うから、“何て名前になったんだ?”と尋ねた。“215634さ”と彼は答えた。“ここは生まれ育った山間や町のストリートと同じだ。とにかく必死で生きなければならない”と、電話の向こうで彼は言った。」 シェーンは友人が語った言葉を書き留めると、コラボレーターのアダム・ウッドやベン・チャップマンと共に曲として仕上げ、「215634」とタイトルを付けた。「自分自身で経験したことのない苦難だったから、彼の話をどうやって伝えたらいいか分からなかった。でも彼の言葉を聞いて、町で生き抜くことがどういうことか、理解できた」とシェーンは言う。「俺は山間で生まれ育ってきたから、そこで暮らす閉塞感はよく知っている」。 その後シェーンは、刑務所や厚生施設でのコンサートを行うようになり、今後も続けていくつもりだ。しかし彼が常に意識しているのは、受刑者やホームレスや薬物依存者を含む広い意味での「労働者階級の苦闘」に焦点を当てることだ。 「生まれ故郷に帰って気づいたのは、最も深刻な問題を抱えながら刑務所や厚生施設を出たり入ったりしている人々の中には、建築現場で働いたりトラックを運転しながら必死で生きている人もいる、ということだ」とシェーンは言う。「90年代の何もかもがクールな時代に、俺はそこで暮らしていた。それからメタンフェタミンが小さな町にも広がって、今やフェンタニルやヘロインだ。そんな状況が労働者階級を破滅に追い込んでいる」。 シェーンが好んで着るブランドTroll Co. Clothingのシャツには、「Dirty Hands, Clean Money(自ら苦労して働き、クリーンな金を手にしろ)」という労働者階級のスローガンがデザインされている。彼は若者たちに対して、それぞれの職業にはチャンスと誇りがあり、お金も稼げるということを伝えたい、と思っている。「みんなテレビの“CSI”シリーズなんかを見て、自分も法医学者になれるなんて勘違いして大学へ行ったんだよ」と彼は言う。「大学が向いていないと感じたら、そんな罠にはまるなよ、と若者たちに言いたい。大工の見習いをしたり、専門学校で車の塗装方法を学んだりして、手に職を付けた方がずっといい」。 我々はランチを終えて、彼の愛車ブロンコまで歩いた。特に急ぐ用事もなかったシェーンは、筆者が車を停めた場所まで送り届けてくれながら、自身のタトゥーについて話し出した。彼の片手の甲には「Fast(速く)」、もう片方の手には「Slow(ゆっくり)」とタトゥーが彫られ、「大胆に生きながらも、ゆっくり歩め」という教訓を忘れないようにしている。「もしも音楽で上手く行かなければ、俺は交通整理でもするよ。きっと上手くやってみせるぜ」と彼はジョークを飛ばした。 信号待ちで車を停めると、シェーンは「これをあんたにやるよ」と言って後部座席に手を伸ばし、デイバッグから『Damascus』のCDを取り出した。筆者に手渡しながら、書かれたメッセージを読むように言った。「これを手にしたということは、俺があんたを殺さずに済んだということだ……おめでとう!」と、そこには書かれていた。
Joseph Hudak