ロケ地なぜ町田? 河合優実主演『ナミビアの砂漠』カンヌ受賞の山中瑶子監督に聞いた
河合さんとはどんな話をしましたか。
山中監督:お互いに家族の話とかをしました。あとは、私はもうすでに年下の方たちが何を考えているのか分からないところがあるので、毎日何を思っているんだろう、今の日本の東京で生きている気分ってどういう感じなんだろう、といった話もしました。年下のスタッフにも話を聞いたら、そもそも生まれた時点から日本のムードがあまり希望的ではないとか、はっきりとやりたいことがなくて何か夢がある方がもはや恵まれている感じがするとか、共通するものはやっぱありました。
彼氏であるハヤシ(金子大地)・ホンダ(寛一郎)や職場の新人(倉田萌衣)、隣人(唐田えりか)は、それぞれどんな立ち位置になりますか。
山中監督:カナはホンダから逃走をし、ハヤシとは闘争関係になります。そして今度はハヤシがカナから逃走したいと思うようになる。そういった関係性の逆転を描いてるところがあります。あと、ざっくり過去・未来・現在というようなことは考えていました。新人はかつてのカナでもあり得るし、隣人は未来のカナでもあり得る。今のカナはどん詰まり感があるかもしれないけど、それがそのまま未来の自分を決めるわけではないので。 隣人に関してはイマジナリーフレンドなのかと聞かれることもありますが、普通に存在している人間です。キャンプのシーンは現実ではないように撮っていますが、実際に隣に住んでいる設定です。
カナとハヤシの喧嘩中に出てきた、イメージの世界も独特でした。
山中監督:喧嘩を繰り返していると、最初は本気でもだんだんルーティーン化して、「何やってるんだろう」みたいなフェーズに入り、そこで自分を客観視できるんじゃないかと思います。どうしたらそれを映像で表現できるのかと考えたときに、あのような表現になりました。
なぜ「ナミビアの砂漠」というタイトルになったのでしょうか。
山中監督:いくつかあります。劇中で登場するあの動画は、実際にYouTubeにあるチャンネルです。「ナミビア」は現地の言葉で「何もない」という意味で、世界最古の砂漠とも言われています。あの水飲み場は人工的に作られたもので、それを定点カメラで撮って、YouTubeで24時間ずっとライブ配信しているんですけど、その収益があの公園の設備維持などに使われているそうです。それ自体は良いことだと思うんですが、我々が安全圏から手軽に見ることができるということが、そこに資本主義消費社会を感じてしまって。あと、カナは恋人や友達など、身近な人のことは粗雑に扱うにもかかわらず、少し遠いカウンセラーや隣人の言うことは素直に聞けるところがあります。砂漠の動画を見て遠いところに思いを馳せて安らげたりすることも、それに近いところがあると思って。人や物との距離感みたいなものは、カナに限らず多くの人に分かるところがあるかもしれない。そういう距離感を象徴するようなイメージです。