ボードゲームが「能力格差」を乗り越えられる理由…ダイバーシティにつながるヒントがあった
■「人狼」系で、能力差を排除するゲーム 小野 『レジスタンス』は人狼系、ないし「正体隠匿(いんとく)系」と呼ばれるジャンルのゲームシリーズですね。最初にひとり1枚ずつ配られるカードでゲーム内での「役割」が決まり、他人のカードは原則として覗くことができない(=相互に正体を知らない)点が特徴です。 通常の『人狼』では毎ターンにひとりずつ退場者が出るので、ルールを理解せず不可解なプレイングをする人がいた場合、迷惑がられて真っ先にゲームから除外されてしまいます。対して『レジスタンス』は退場者を出さないデザインになっており、中でも『アヴァロン』は完成度が高く、アーサー王伝説に基づく世界観も優れた人気作です。
與那覇 はい。『アヴァロン』で一番重要な役職は予言者の「マーリン」で、彼だけがプレイヤーのうち誰が「悪の陣営」(人狼に相当)なのかをすべて知っています。しかし悪の陣営の側は、誰がマーリンかを見抜けばそれだけで勝利できるルールなので、普通はゲーム中に「ぼくはマーリンなので、誰が悪かを知っています」とは名乗り出ません。 ところがルールに慣れていない場合、よく考えずに「ぼくはマーリンです」と自分で言っちゃう人が出てくる。しかしでは即ゲーム終了かというと、そうはならない。悪の陣営の側も「まさか本人が名乗り出るはずはないので、これは陽動作戦で、本当は別の人物がマーリンでは?」と思考を巡らすため、より疑心暗鬼が深まり、普段より盛り上がる展開も起き得ます(笑)。
小野 なるほど(笑)。上級者どうしが「高度に戦略的な判断」として行うプレイングと、初心者ゆえの「ボケてしまったプレイミス」とは、意外に見分けがつかないこともあると。 與那覇 ええ。まさにそうした奇跡が起きるのが、人間どうしで遊ぶことの楽しさではないでしょうか。世の中には思考や言動が「普通の人」とはかけ離れた、俗にいう「面倒くさい人」もいるわけですが、でもそうしたノーマルでない人が混じってくれることで、かえって面白くなるゲームもあるよと。
そこに「能力の格差」をも包摂し得る、本当の意味での多様性のヒントがあると思うのです。
小野 卓也 :ボードゲームジャーナリスト/與那覇 潤 :評論家