女子バレー 竹下の後継者、宮下遥の可能性
不躾な質問だった。試合後の上気した顔は、みるみる赤くなっていった。キュッと結んだ唇が、わなわなと震えだす。「竹下さんの後継者として期待する声も大きいが……」。そう切り出した途端、セッター宮下遥の頬を一筋の涙が伝った――。 もとより押しつぶされそうな重圧はあった。何しろ、国内初戦である。8月16日。ワールドグランプリ予選ラウンド第3週。会場となった仙台市体育館は、収容人数を大幅に上回る6375人の観衆で膨れ上がった。前の日はろくに眠れなかったという。2週間前のタイ戦で全日本デビューを果たしたばかりの宮下にとって、緊張を増長する材料はそろっていた。 不安は立ち上がりに表れた。相手は、1週間前にブラジルから金星を奪って勢いに乗るブルガリア。宮下はいち早く流れをつかもうと、決定力の高いサイドにトスを集めた。しかし、緊張からくる心の乱れは、ボールをコントロールする指先にわずかなブレを生み出した。トスの高さが安定しない。直線的な軌道を描くはずのボールは、アタッカーの手前で失速した。アタッカーのスイングは縮こまり、力を失ったスパイクはことごとくブルガリアの高い壁に跳ね返された。 相手ブロッカーの意識がサイドに傾けば、空いたセンターから速攻を仕掛けるのがセオリーだ。しかし、宮下はセンターを使わなかった。使えなかった。「練習でもセンターとのコンビがイマイチ合わなくて、自信がなく、結局サイドになってしまった」。攻撃の的を絞られ、エースの木村沙織には常に2枚のブロックがついた。第3セットにはバックアタックも織り交ぜたが、それも単発で終わった。世界ランキング43位(日本は同3位)のブルガリアにまさかのストレート負け。宮下にとってはほろ苦い国内初戦となった。 28年ぶりに銅メダルを獲得したロンドン五輪から1年。引き続きチームの指揮を執ることになった真鍋政義監督は、今季のテーマに「世界一を知る」と掲げている。確かにそれも大事だろう。だが、リオデジャネイロ五輪に向けた第一歩と考えるなら、そこに新戦力との「融合」がなければ成り立たない。とりわけセッターに関しては、10年以上にわたってチームを引っ張ってきた竹下佳江が、先月に引退を表明している。後継者の育成は急務だ。