【ヤクルト】奥川恭伸初の声援・拍手で連勝「待っていてくださった方が…」995日ぶり神宮で勝利
<ヤクルト6-1阪神>◇29日◇神宮 奥川が帰ってきた。ヤクルト奥川恭伸投手(23)が、21年10月8日の阪神戦以来、995日ぶりとなる神宮での勝利を挙げた。右肘痛で緊急降板した22年3月29日の巨人戦以来、823日ぶりの本拠地のマウンド。阪神打線を5回2安打1失点に封じた。チームの連敗を4で止め、自身も復活勝利を挙げた14日オリックス戦(京セラドーム大阪)に続き、2連勝をマークした。 ◇ ◇ ◇ 忌まわしきサウンドは、心地よい音でかき消された。神宮での声出し応援は初めて。割れんばかりの拍手は懐かしかった。奥川は「すごい力をもらいました」と感謝した。初回、4回以外は毎回得点圏。生命線の制球力は乱れたが、5回1失点。「内容だけ見たらひどい試合でしたけど、でも粘って1点に抑えたのは大きなこと」。 あの日、体内で異常音がした。緊急降板した22年3月29日の巨人戦。「プチッて。耳に聞こえる音じゃなくて体の中で」。右肘の筋肉が切れた。靱帯(じんたい)は切れていなかったが、はがれた骨は3ミリ以上。通常であれば、1ミリ程度で手術を打診される異常値。病院でも「ありえない。靱帯断裂しないと取れない数字」と言われた。 ただ、右肘の声は気まぐれだった。「肘とずっと会話。でも、痛いと思ったら、痛くない日々が続いて。自分で切ろうと思った。痛いのにブルペン入って、全力で投げた日もあった。切れてしまえば、手術になる。でも、切れなかった。だから『手術やるな』ってメッセージなのかと」。保存療法を選んだ。 音も声も覚えている。でも、それ以外は覚えていない。「頭おかしくなっていました。22年の夏ごろから秋ごろの記憶が全くないです。練習してたっけって」。痛んだり、痛まなかったり-。どっちつかずの日々は精神面も、むしばんだ。「立っているのも、座っているのもしんどかった。朝、戸田に行くだけで全体力消耗。昼飯食べて、横になって、気付いたら夜。それぐらい、僕、悩んでいました」。 暗闇の中で、自身を導く声は聞こえた。「ずっと僕を待っていてくださった方がたくさんいたと思いますし、そういう思いもすごく僕も感じていた」。それを頼りに、神宮に戻ってきた。「本拠地っていうのは特別」とかみしめた。復活勝利から2連勝。2週間前、お立ち台で見せた涙はもうない。「離脱がないようにこれからしっかり皆さんの期待に応えられるように頑張りたい」。神宮で味わった苦い記憶は、この場所でアップデートしていく。【栗田尚樹】