シークレットサービスの憂鬱 トランプ氏暗殺未遂で改革論再び【ワシントン報告⑳大統領警護隊】
トランプ前米大統領の暗殺未遂事件を受け、大統領警護隊(シークレットサービス)が批判の矢面に立たされた。要人警護はうまく行って当たり前で、失敗は組織の致命傷に直結する。警護対象者は増えており、警護隊の「祖業」と言える金融犯罪捜査部門を分離して要人警護に専念すべきだという改革論が再び出てきた。(共同通信ワシントン支局長 堀越豊裕) 【写真】トランプ氏、福島の原発事故に軽口 「3千年は土地に戻れない」 マスク氏は反論「私は福島へ行き…」
▽公聴会 7月下旬、暗殺未遂から9日後に開かれた米下院の公聴会は重苦しかった。「全ての責任は自分が負う」。警護隊のチートル長官は約5時間、数十人の議員から徹底的な責任追及を受けた。日ごろ対立ばかりの民主党と共和党も声をそろえた。 レーガン大統領が1981年、講演を終えてワシントンのホテルを出たときに銃で撃たれて以来の不祥事で、弁解の余地もない。チートル氏は肩を落として委員会室を去り、拒んできた辞任を翌日表明した。 米議会の公聴会は要職にある公人の資質を問う場だ。日本のような想定問答集も分厚い関連資料も手元に置かず、自分の頭だけで考えて答えていく。これをこなせないと米国の公職は務まらない。受け答えに落ち度があれば直ちに進退に結びつく。昨年暮れにはパレスチナに対するイスラエルの攻撃に反対する学生の抗議活動が続いた名門ハーバード大などの学長が呼び出され、辞任につながった。 ▽落とし穴
警護隊は偽札捜査のため1865年に財務省の傘下に設置された。当時、南北戦争で大量の偽札が流通していた。1901年の第25代マッキンリー大統領暗殺後、大統領の警護業務が加わった。財務省はホワイトハウスに隣接している。対象は大統領経験者や家族に広がり、米メディアによると、現在は36人に上る。職員は8千人規模で、金融捜査と要人警護が2本柱になっている。2001年の米中枢同時テロ後の組織改編で、財務省から国土安全保障省に移管された。 身をていして対象者を守る警護隊のプライドは高く、それが「劣悪な環境でも任務を遂行する」(警護隊に詳しい作家ロナルド・ケスラー氏)文化を生んできた。銃社会での警護は緊張感を強いられ、大統領外遊時は不慣れな場所での任務となる。勤務は過酷だが、不十分な人員や予算にも声高に文句は言わないできた。チートル氏ら歴代長官の多くが内部から選ばれてきた点を踏まえ、ケスラー氏は「外部から人を入れて組織の全てを見直すべきだ」と提言する。