ヤフオク7万円で買ったシトロエン、細々したトラブルと平和だった(わずか)半年間【シトロエン・エグザンティア(1996年型)長期リポート#33】
なにやらまたしても緑色の血の匂いが(笑)
ヤフー・オークションで7万円のシトロエン・エグザンティアを手に入れ、10カ月と200万円かけて修復したエンジン編集部員ウエダの自腹散財リポート。今回は大規模修理から1年間の総まとめと、LHM漏れでキャリアカーで運ぶなど大慌てしてからの、およそ半年間の平和な日々の様子をお届けする。はたして、25年以上前の中古車がどれくらい実用的だったのか。また、走行距離の非常に少ない別のエグザンティアに乗る機会もあったので、比較試乗の模様もご報告しよう。 【写真43枚】ヤフオクで7万円で落札したシトロエン・エグザンティア 最近起こったトラブルの写真がこちら! ◆ようやく落ち着いた? 2021年6月に手に入れ、そこから板金と整備で10カ月。納車が翌2022年3月末の春のことで、喜び勇んで走り出せば納車当日からサスペンションがハード・モードに固定。それを直しても続いて速度計が不調に。日本の酷暑をなんとか乗り越えたと思ったら、秋になるのと同時にハイドローリック・シトロエンの命ともいえる緑色のフルードを路上でぶちまける。……とまあ、こんな具合に春・夏・秋と色々あったわけだが、冬が近づくと、ようやくエグザンティアは落ち着きを見せたようだった。そして、ふたたび春が巡ってくる頃には、積算計の数字は17万4088kmまで進んだ。 なんとか初期の不具合は洗い出すことができたといえるだろう。2022年3月末から2023年3月末までの、ちょうど1年間の総走行距離は1万5118kmだった。そのうち269kmはカークラフトによるテスト走行など、僕が運転していない分なので差し引くと、1万4849kmを走破したことになる。1カ月あたりの平均で約1200kmだ。どうだろう、27年オチ、17万kmオーバーの過走行の中古車にしては、なかなかよく走ったのではないだろうか。 この1年、僕は24時間365日、雨の日も風の日も、混み合った渋滞も遠方への旅行も、仕事でもプライベートでも、家族や知人、荷物を満載にしてエグザンティアで走り回った。 定期的によく走ったのは自宅から新潮社までの往復で、国道1号線、首都高2号線、環状線、5号線を経由するというもの。ただし比較的この道筋は空いていることが多く、通勤ラッシュなど渋滞に巻きこまれることは少なく、エグザンティアにとっては安楽なドライブだったとも言える。このルート、特に首都高とエグザンティアの相性がすこぶるいいことについてはまた機会を改めてご報告したい。とはいえ、行楽時期や年末年始の帰省の際は、長い渋滞にきっちり巻き込まれている。 ◆1年間の平均燃費はリッター10km そういう状況下で走って燃費はどうだったか。満タン法で算出したところ、1年間の平均燃費は10.01km/リットルだった。いちばん悪い時で8.1km/リットル、もっとも良い時でも11.5km/リットル。もちろん、燃料はすべてハイオク・ガソリンだ。 基本設計は30年以上前の内燃エンジンと、今や効率がいいとはとても言えない4段のAT。ほぼ1年を通じてエアコンを使い、サスペンション、パワー・ステアリング、ブレーキすべてに関与するハイドローリック・システムのためのポンプの駆動ロスも大きい。それらを踏まえたら、リッター10kmというのは、これまた決して悪い数字ではないと思う。もちろん、2024年現在の欧州実用車と比べたら、けっして褒められたものではないけれど……。 冬から春にかけての工場入りは2回あった。1回目は鈴虫と呼んでいるメーター・ユニット周囲からの異音対策。2回目はフロントのアディショナル・スフェアのソレノイド・バルブからのわずかなLHM滲みの修理だ。鈴虫対策の時はリア・サスペンションからの少し大きめの異音の点検も行っているので少々手間が掛かったが、LHMの滲み対策はソレノイド・バルブのオーバーホールのみ。いずれも部品代はほぼ掛からず、コストは工賃のみだった。クルマを預けるのも、数日程度で済んでいる。 この時期の修理の詳細について写真をご覧になって欲しい。用いた部品など、明細は以下に記しておく。 ※部品価格などは2022年10月ないしは12月時点のもの ・バルブ・キャップ(6個入り) 工賃なし (ホームジョイホンダで購入※部品代460円) ・オーディオ・ユニット脱着、ステアリング・リモート・コントロール用配線の固定、オーディオ・ユニット固定ピン取り付け、前後サスペンション点検、リア右サスペンション・シリンダー部にラバー取り付け 19,000円 (※部品代なし) ・前アディショナル・スフェアのソレノイド・バルブを脱着、組み付け、LHM補充(部品取り車アクティバより脱着、清掃、分解を含む) 7,200円 (※部品取り車両より流用のため部品代なし) 合計 26,660円 しかし残念ながら鈴虫退治は成功せず、その後もときどき鳴り続けている。いっぽう、段差を乗り越えるときなどのリア・サスペンションからの「バキン!」という嫌な音は、この作業以降まったく出なくなった。 鈴虫は60km/hくらいの、エンジン回転が2000rpm前後の比較的荒れた路面で発生しがちで、気持ち良く田舎道を走っている時などに鳴り続けるので、どうにか根治したいとその後もしつこく対策を検討している。これもまた、改めて成果をご紹介したい。 ◆極上のエグザンティアがやって来た 半年間で入庫したのは2回だったが、異音にしてもLHMの滲みにしても、大至急作業が必要だったわけではない。では、なぜ主治医のカークラフトに足を運んだかといえば、面白いクルマが入庫してきたからだ。 カークラフトにやって来たのは、ワイン・レッドの2000年型シトロエン・エグザンティア・エクスクルーシブ。リポート車両と同じハイドラクティブ2を備え、排気量は同じ2リットルだがDOHCユニットを搭載する最終型モデルで、走行距離はわずか2万6000kmくらい。カークラフト顧客の知り合いが静岡県某所で乗っていたそうだが、少々やっかいなトラブルを抱えており、長らく放置されていた。 もともとこのクルマの話は僕も耳にしていて「部品取りとして買っておいたらどうだ?」とカークラフトの篠原 勇さんから声を掛けてもらっていた。しかし様子を聞けば聞くほど、部品取りにするのはもったいないくらいの素性の持ち主だった。ワイン色の外装も、ファブリックの内装も、目立つダメージはなく程度は極上。ただし、キーをひねっても突然始動できなくなる持病を抱えていた。 ところがディーラーに積載車で運ぶと、何事もなかったかのようにエンジンがかかる。メカニックが確認しても、おかしな所はない、と言われてしまう。たちの悪い症状だ。結局ずっとその繰り返しで、オーナーはほとほと困っていた。 カークラフトは顧客を通じ、このワイン・レッドのエグザンティアをオーナーから引き上げることになった。さっそく油脂類の交換と簡単に点検を行い、スタッドレス・タイヤを装着するなど最低限の整備を行い、走行テストを繰り返す。 幸い始動不良の原因は突き止められ、続いて発生したECUユニットの不具合も、あるスペシャリストとの出会いでなんとか修復。圧が抜けていたスフェアは交換され、ハイドラクティブ2のソレノイド・バルブもついでに加工。僕のリポート車のようにハード・ロック症状が出ないよう、機械的にソフト側へ固定してしまった。つまりスフェアの数は2つ多いまま、ハイドラクティブ2をハイドロニューマチックにしてしまったというわけだ。この状態でもECUからの制御は問題なく、足まわりはずっとしなやかなままだという。 カークラフトがECUのスペシャリストと確認したところ、エグザンティアより後の初代C5など、緻密な制御が行われるECUユニットは、中の集積回路が樹脂コーティングされてしまっており、なかなか手が付けられないそうだ。もちろん、新品のECUなど、すでに入手はそうとう困難になっている。やはり制御が簡単で、構造が現代のクルマに比べてシンプルなエグザンティアは、人の手で直していくことができる、最後のハイドローリック・シトロエンになるのかもしれない。 ◆極上のエグザンティアに乗る カークラフトの篠原さんは悪いところをどんどん洗い出したいから、リポート車の代車はこのワイン・レッドのエグザンティアではどうか、という。願ってもないことだ。後期型のエグザンティアには新車当時は結構乗ったけど、かなり久しぶりのドライブである。こうして入庫の間、トータルで約360kmほど、一般道と高速道路を試すことができた。 残念ながらこの時点では足まわりは作業前で、スフェアの圧が抜け、ややリア・サスペンションの突き上げが大きめだった。PSAとルノーの共同開発のAL4という4段ATも、信号が赤になって減段していく時など、かなり強くガツン! というショックが出ていた。特に後者は、後期型のエグザンティアではよく知られる持病だ。放置すれば、ATの載せ替えやオーバーホールが必要になる。これには同乗した家族も「赤い方が青いうちのクルマよりすごく綺麗なのに、ガクガクして、なんか古いクルマみたいな感じがする」という。 確かにそうした部分もあるけれど、一方で、ボディ剛性がすごくしっかりしているところや、DOHCに変更されたエンジンの高回転域のスムーズさは、リポート車とまったく別物だった。いやー、いいわコレ。室内の静粛性も含めると、ひとクラス上級になったような印象すらある。高速域では特に差が顕著だ。 内外装の綺麗さや、走行距離のことを考えても、正直、こっちに先に出会っていたらなぁ、と思わずにはいられなかった。同じように200万円をつぎ込むなら、普通の人は7万円のリポート車でなく、確実にこっちをベースにするだろう。 とはいえ、いますぐこちらに乗り換えたいかと言われたら答えはノーだ。この極上エグザンティアだってこの時点ですでに22年オチである。リポート車のように1度徹底してある程度手を入れていれば安心だけど、いくら走行距離が少ないからといって、経年で部品はどんどん劣化していく。むしろ、どこに何が潜んでいるかは分からない。トラブルが続いて延々もぐら叩きになる可能性だってある。走行距離が短いという理由だけで手を出すのが、天国への道とは限らない。 リポート車のSOHCのエンジンはちょっとうるさいし、上り勾配になるとパワーが足らないなぁ、と思うことはよくあるけれど「ATはぬるりぬるりと気持ち良く変速するリポート車の方がずっと好みでしたよ」「シャープなオリジナル・デザインの初期型のほうがカッコイイですしね」と、僕は篠原さんに強がりを言っておくことにした。 その後、このワイン・レッドのエグザンティアは予想通り細々としたトラブルが出つつも、なんとか元気にやっているらしい。 とにもかくにも、1台またエグザンティアが路上に復帰したのはめでたいことだ。前オーナーはそれを、とても喜んでいるそうである。 ◆過去最大級のトラブル襲来! さて、我がエグザンティアの方はといえば、2023年早々、古のシトロエンDSがマスコットになっているクルマ好きの集うカフェを訪ねたりもしたが、その後持ち主がポーランドとフランスに旅に出てしまったため、納車以来はじめとなる10日間ほどの長期休暇を味わっていた。 このあたり詳細については写真と、海外篇のリポートを参照して欲しい。 さて次回は2023年の春から夏にかけて、国内外から入手した部品たちについてと、半年の短い平和の終わりを告げる、これまでで最大級のトラブルの襲来についてご報告していく……。 文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=上田純一郎/カークラフト ■CITROEN XANTIA V-SX シトロエン・エグザンティアV-SX 購入価格 7万円(板金を含む2023年3月時点までの支払い総額は234万6996円) 導入時期 2021年6月 走行距離 17万4088km(購入時15万8970km) (ENGINE WEBオリジナル)
ENGINE編集部
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