西洋絵画の裸婦は公序良俗に反する? 藝大教授が語る「ヌードとネイキッド」の違い
西洋絵画で描かれることの多い裸婦。明治時代には公序良俗に反するものとして大問題になったこともあるといいます。しかし、裸婦は本当にエロティックに描かれたものなのでしょうか? フェティッシュな美術作品の歴史について、書籍『東京藝大で教わる西洋美術の謎とき』(世界文化社)の著者である、東京藝術大学美術学部教授の佐藤直樹さんにお話を聞きました。 【この記事の画像を見る】
絵画に登場したマネキン人形
――書籍『東京藝大で教わる西洋美術の謎とき』では、絵画のモデルに使われたマネキン人形について解説されていました。マネキンを使って描くのは普通のことだったのでしょうか? 画家自身も人間を描くときには「生身の人間」をモデルにすべきだとは思っていても、モデルをずっと立たせておくのは難しいですし、お金もかかります。そこで、マネキン人形などを使って絵を描いていた画家は実はたくさんいたのです。 人形という「喋らないパートナー」は経済的にも、時間の節約にもなるでしょう。身体部分はマネキンを使って描いておいて、顔だけは生身の人間をスケッチして入れ込めばいいのです。 絵画を展示する際に、この絵は人形を使って描きましたとわざわざ述べる必要はないし、そのことは画家の秘密で良いのです。ただ、その秘密を暴いてみると作品は急に違ったものに見えてくるから不思議です。 これまで絵画に描かれたマネキン人形の存在は見逃されてきました。しかし、マネキンが使われている可能性を念頭に置いて美術史を見直してみると、ルネサンス以降 頻繁に人形が使われていたことが明らかになってきました。これまで何度も見ていた作品でも、人形を使っていたことがわかるとまるで別の作品に見えてくるんですね。そこが美術の面白いところだと思いますね。
フェティシズムが先鋭化した
――マネキンを描いた画家として、オスカー・ココシュカが挙げられていました。恋人の代わりとして作った人形を描いていたのは、ちょっと不気味です...。 ココシュカの後に続いて、関節人形を作るハンス・ベルメールが出てきたり、日本にも金子國義や四谷シモンといった人形作家が登場しますが、どの作家の作品も女性に対するフェティシズムや、少女・少年性愛的な要素が見え隠れします。また、バルティスに至っては、少女のエロティックな様子を描いて裁判にもなりました。 こういった系譜をみると、ココシュカは、単にマネキンを使って人間像を描いたこれまでの作家とは異なり、人形自体への偏愛を描く一つの転換点だったと言えるでしょう。あるいは、人形やマネキンによってこれまで抑圧されていたフェティッシュな感覚が浮かび上がってきた可能性があるかもしれません。