空き家はなぜ増え続ける?「わけあり不動産」専門のプロにそのワケを聞いた
少子高齢化による人口減少や数々の自然災害など多くの課題を抱える日本。近年そのひとつとして注目されているのが「空き家問題」だ。自分でも把握していないうちに親から相続していたり、法律の関係上、リフォームなどが難しい土地に家があったり、さまざまな理由から土地活用がうまくできないために放置され空き家になってしまうというケースがある。総務省が行った2023年の調査によると全国の空き家数は900万戸にものぼり、年々増加し深刻化しているという。 【グラフ】年々増加する空き家の推移。誰も住んでいそうにない古い家屋を見たことがある人も多いのでは こうした「わけあり不動産」を専門的に取り扱う株式会社ネクスウィル(以下、ネクスウィル)代表取締役の丸岡智幸さんに、なぜ空き家が増え続けるのか、なぜわけあり不動産を専門的に買い取るのかなどの質問をぶつけた。 ■ゼロからのスタートで現在では月500件の相談 丸岡さんはもともと投資用不動産の運用をしており、その中で空き家などの「わけあり不動産」にも関心を持っていたのだそう。大きなきっかけになったのは、顧問弁護士から「共有持ち分の不動産について相談を受けることが多い」という話を聞いたときだ。実際にそうしたことで困っている人に向けた広告を行ってみると、意外にも困っている人が多いことを知ったという。弁護士と相談を重ねながら事業を展開して、現在は月に500件ほど相談が来るようになったのだとか。 「これまでに価格設定を誤り大赤字になってしまうこともあり、大変なこともありました。ですが、『買い取ってもらえない不動産』を専門的に取引する会社はほかにない大きな特徴だと思います。手持無沙汰になってしまっている不動産を利用可能にするということは、社会的意義もある事業だと思っています」 特に大変なケースとしては、ひとつの不動産に対して共有持ち分を持っている人が国内のいろいろなところに何十人もいるという場合だ。一人ひとり「不動産を売ってもいいか」の確認手続きを行わなければならず、はじめのうちはノウハウが確立していなかったこともあり、苦労したそう。 「親が共有持ち分を相続し、子がさらにそれを相続するということもあります。そもそも持っていたことも知らなかったという事例もありましたよ。さまざまな背景の方が来られます。そもそも、相続や不動産について何の知識もない人が多いので、急に言われても対応できませんよね」 相続したはいいが持っていても住まない、使わないという理由から売却しようとした際、共有持ち分への確認、さらに登記簿上の所有者が何代も前の先祖から更新されていなかったなどのさまざまな背景から、普通の不動産屋では買い取ってもらえず結果的に空き家になってしまうというケースが多いようだ。 ■深刻化する日本の空き家問題には多様な理由がある 総務省が行った2023年の調査によると、全国の空き家数は900万戸にのぼり年々増加。空き家問題が深刻化していると報告している。しかし、丸岡さんによると実際に問題となる空き家数はもう少し少ないそうだ。 総務省が報告している900万戸のなかには利用可能な空き家、つまりまだ誰も住んでいない空き部屋となっているマンションの部屋や買い手がつきそうな中古の戸建ても含まれているそう。本当に誰も住まなくなって利用価値が低くなってしまっている本当の意味での空き家というのは半分の400~450万戸と考えられるという。それでも数は多いため、決して楽観視はできない。 「今、国内において新築の着工数は増加傾向にあります。人口減少だと言われているのに、新築の家はどんどん増えているんです。そのため、古い家は使われずにそのままになってしまっていて、中古物件の使用率は1割ほどだと言われています。空き家が増える理由にはさまざまなものが挙げられると思いますが、大きな要因としては“新築が売り続けられているから”ではないかと考えています」 アメリカでの中古物件の割合は9割で新築はほとんどないと言われているそう。古いものを少しずつリフォームしてずっと使い続けるというのが一般的なのだそうだ。一方で、日本は災害大国ということもあり、地震や台風への耐久性が家屋には必要不可欠。南海トラフ地震の可能性がある以上、特に耐震性は重要視される。「古い建物は耐震性を不安視されるため新築物件に多くの人が流れてしまうという理由もある」と丸岡さんは語る。 新築のハウスメーカーの広告は日常的に目にする機会が多いのに対して、中古物件の売買ができる企業はあまり知られていない。困ったときにどこへ相談すればいいのか、ぱっと思い浮かばないのではないだろうか。 ■空き家問題への対処とその課題はまだまだある 総務省が空き家を調査したことからもわかるように、国としても空き家問題は大きなものとしてとらえている。今年4月に施行された「相続登記の義務化」はその表れでもある。空き家が犯罪の温床になり、治安や景観の悪化にもつながる。さらに、丸岡さんによると空き家の多い地域は付近の土地の価値も下落する傾向があるという。こうした背景から、今年4月には相続登記義務化の法律改正がなされ、不動産の所有者を常に明確にしておこうとしている。 「これまでにも空き家について問題視はされていました。2015年にスタートした『空き家バンク』という地方自治体が行っている情報提供システムもまた空き家問題を抑制するために始まったシステムです。入居者のいない空き家を活用して少子高齢化や人口減少した地域に人を呼び、居住者を増やしたり観光客を呼んだりして活性化させようとする側面もあります。しかし、うまく運用できている地域は多くありません。移住先の住居だけでなく雇用を増やすということをしないと、人が定着せずに数年ほどでまた移ってしまうことになります。そしてそのまま消滅していってしまうんです」 役所の担当者が不動産や法律のエキスパートであることは少なく、対応しきれないというケースも多いようだ。空き家バンクが上手く運用できない背景にもこうした要因が考えられる。丸岡さんは「どうしようもないとあきらめて不動産が放置されてしまう前に、売却できない不動産を専門的に買い取ってくれるネクスウィルのような企業が役所とも関わりを持って間に入るべき」と語る。 「我々のような企業は大手ハウスメーカーと異なり広告などはあまり行っておりませんし、認知度もまだまだ十分ではありません。なので、『本当に大丈夫なの?』と不安に感じる方も多いと思います。自治体、特に空き家が多いとされる地方自治体との連携を行い、実績を作ることで信頼感と安心感を持ってもらえると思います。ネクスウィルがリーディングカンパニーとなって、積極的にパートナーシップを結んでいきたいと考えています」 自分には縁がないと思いがちな不動産の問題だが意外に身近な問題であり、自分が困らないためにも、アンテナを張る必要があるのかもしれない。 文・取材=織田繭(にげば企画)