「介護ヘルパーの乱」が暴いた国の介護つぶし
国の介護政策が介護をつぶす。2月2日に東京高裁で判決が出た「ホームヘルパー国家賠償訴訟」では、そんな驚きの手口が次々と明るみに出た。「介護ヘルパーの乱」が暴き出した働き手不在の介護保険の闇が、そこに見えてくる。
移動長いと最賃割れも
2日、高裁前で掲げられた垂れ幕は、「勝訴!」でも「敗訴!」でもなく、「控訴棄却」と「原告らの主張を一部認める」の2枚を並べた風変わりなものだった(写真)。 原告は3人のベテラン訪問介護員(ホームヘルパー)だ。2019年、彼女たちは、ヘルパーの労働条件が十分守られず、その結果としての慢性的な人手不足が指摘されても一向に解消しない「国の不作為」を問題にして提訴した。 一審は、労働条件は使用者の問題として棄却。高裁判決は、そうした原告らの主張を事実として認めた点で前進だった。だが一方で、それらは国家賠償法違反に当たる「著しい不合理」とまでは言えないとして控訴は棄却となり、ボールは政治解決に委ねられた。 一般論で言えば労働条件の責任は使用者にある。にもかかわらず、原告らが「国の不作為の責任」としたのは、ヘルパーの労働条件が、国の介護報酬によって決定づけられているからだ。 介護保険制度では、介護サービスを対象に、それを何件こなしたかの「出来高払い」方式で介護報酬額が決められる。訪問介護に不可欠な次の訪問先への移動時間や、キャンセル、待機時間、記録作成時間などの付随労働についての賃金は規定されていない。 その結果、認知症の利用者が徘徊などで訪問時間に自宅におらず、長時間捜し回って、サービスができずに終われば報酬はゼロとなる場合も少なくない。山根純佳・実践女子大学教授の協力で原告側が21年に行なった事業所調査では、こうした付帯労働は労働時間全体の4割にも及んだ。 批判の中で厚生労働省も、04年に「訪問介護員の移動時間や待機時間は原則として労働時間に該当する」という通達を出し、再三、支払いを求める確認通知を出した。だが原告側の調査では、不払いや、距離や回数に応じた支払いが多く、1回あたりの平均支払額は163・1円にすぎない【図表1】。これでは、移動時間が長いと最低賃金を割り込みかねない。 月の報酬も5・5万~7・8万円と、低水準な上に高低の差が大きく、安定した生活は無理だ。そんな設計が「ケアは主婦がただでやってきた仕事」(介護保険発足時の事業者の言葉)などのジェンダー差別を背景に問われずにきた。