少年兵から大人気モデルへ……異色の経歴を持つ青年がファッションデザイナーになった理由は?
南スーダン出身のマムオル・マジェンは、ファッション・ウィーク・メンズのランウェイでいまや大人気のモデルだ。だが2年前までは、内戦で荒廃した祖国で暮らす普通の少年だった。 【写真】ランウェイを歩く、2023年最も人気を集めたマムオル・アワク・マジェン 黒檀のような肌に黒い瞳の持ち主は、内戦が続く祖国であまりにも多くのことを体験した。希望を失ってもおかしくなかった。しかしながら彼には別な人生が用意されていた。マムオル・アワク・マジェンは1月29日に21歳になったばかりの、ファッション界の新進モデルだ。ファッション・ウィークの登場回数はすでに59回となり、2023年最も注目されるモデルとなった。スーダン内戦で少年兵として戦っていた頃、華やかなランウェイに立つ日が来るとは、本人も夢にも思わなかったに違いない。わずか2年で彼は人生を書き換え、美を体現する存在となった。
人生が激変するきっかけは3年前に訪れた。まだ10代の少年は自作曲でダンスを踊り、南スーダンの村からインスタグラムに動画を投稿していた。これが同国でモデルを探していたスカウト、イヴ・コンスタンの目に留まった。しかしながらマムオル・マジェンが決断するまで1年かかった。詐欺話ではないかと最初疑ったのだ。母親にようやく伝えたのは大手モデルエージェンシーのエリートから渡航が決まってビザが届いてからだったとAFP通信は報じている。母親は「一家の大黒柱」だった長男が行ってしまうことを不安がった。息子は決して家族を見捨てないことを約束し、内戦に揺れる祖国を後にした。
バルマンのミューズ
2年間でマムオル・マジェンは多くのブランドのショーに出演する。バレンシアガ、ケンゾー、ボッテガ・ヴェネタ、アクネ ストゥディオズ、リック オウエンス等々。ひとつのショーで何回も登場することもあった。バルマンのミューズとして最新コレクションではオープニングを飾り、直近のファッション・ウィークでは、ファレル・ウィリアムスによるルイ・ヴィトン、ジョン・ガリアーノによるメゾン マルジェラ、ニースで開催されたジャックムスなど、話題のショーの数々に登場した。1月23日、パリのオートクチュール・ファッション・ウィークの最中に、彼は新たなページを刻んだ。胸をドキドキさせながら立っていたバックステージは彼自身のショーのもの。美しい祖国に想いをはせた結果、自らデザイナーになろうと決断したのだ。AFP通信の取材に、彼はにっこり笑って金のグリル(マウスピース型ジュエリー)をのぞかせ、こう説明した。「一生モデルでいるつもりだったけれど、だんだん、なにかしなきゃと思いはじめた」