生成AIが自動運転がもたらす新たな可能性とは? 人間にしか対応できなかった「未知の状況」への挑戦
LLMを活用した自動運転の課題
LLMを活用した自動運転システムは「未知の状況での自己判断」という従来の課題を解決する特性を持つ一方で、商用化に向けての新たな課題も指摘されている。 まず、信頼性と安全性を評価することが、これまでの「感知・思考・行動」のようなモジュール式アプローチよりも複雑になるという点。統合LLMを含む自動運転車の各要素を検証しなければならず、新システムに合わせた新たなテスト方法が必要になる。 さらに、マルチモーダルLLMはデータサイズが大きく、コンピュータのリソースを大量に消費するため、レイテンシー(ネットワーク遅延度)が高くなってしまうという点。自動運転車はリアルタイムでの操作を必要とする一方で、現在のモデルでは十分な速さで応答を生成できないという。 また、LLMベースの自動運転を実行するにはかなりの処理能力とメモリが必要になり、車両に搭載できるハードウェアの制約とも競合する。 既にLLMを車両での使用に最適化することに注力した研究が進んでいるものの、LLMベースの自動運転車が商用化され路上で見られるようになるまでに、あと数年は掛かると予想されている。
拡大する自動運転市場とLLMベースの自動運転の可能性
世界の自動運転市場は2023年時点で1,260億ドル、2036年までには26,500億ドルと20倍以上の規模に達すると予測されている。(SDKIのレポートより) 自動運転市場は「交通事故の抑制」を大きな目標として拡大してきた。WHOによると、毎年世界で約120万人が交通事故で命を落としており、5~29歳の子どもや若者の死亡原因の第1位にもなっている。国連総会は2030年までに全世界の交通事故による死者数と負傷者数を半減させるという目標を掲げており、自動運転技術にかかる期待は大きい。 自動運転は単体の運転支援機能のレベル1から、完全自動運転のレベル5までに分類されているが、アメリカや中国では特定条件下での無人走行が可能となるレベル4の自動運転車が既に商用化されている。 アメリカで自動運転プレイヤーの先頭を走るGoogle発(Alphabet傘下)のWaymoは、既にフェニックス、サンフランシスコ、ロサンゼルスの3都市で無人の自動運転タクシーを商業運用しているが、人間による運転よりも遥かに高い安全性を示しているという。具体的には、Waymoの自動運転は人間のドライバーと比較して、エアバッグが動作する衝突事故が84%、負傷を伴う衝突事故が73%、警察に報告された衝突事故が48%少ないことが示されている。 よそ見や居眠り、ハンドルやブレーキの誤操作といったヒューマンエラーによる交通事故は、自動運転技術の適用により既に大幅減への道筋が実現しつつある。これに加えて、過去の経験を応用して未知の状況に対処するという、人間の脳と同様の動きが再現できれば、自動運転の完成度は格段に上がるだろう。LLMの活用により、近い未来に人間と同様の自律的な判断力を持った自動運転システムが完成することを期待したい。
文:平島聡子/編集:岡徳之(Livit)