考察『錦糸町パラダイス』その場に居合わせた感覚になった最終話
いよいよ「錦糸町フェス」!ドラマ24『錦糸町パラダイス~渋谷から一本』12話(最終話)を、ドラマを愛するライター・釣木文恵と、イラストレーターのオカヤイヅミが振り返ります。
錦糸町フェスで起きた衝撃の瞬間に立ち会う感覚
最終話の舞台は、第1話からその存在が描かれてきた「錦糸町フェス」。『錦糸町パラダイス』の発起人でありプロデューサーでもある柄本時生が今作の発想の源としていた『ナッシュビル』(75、ロバート・アルトマン監督)よろしく、これまでドラマに出てきた人々がフェスの会場に集う。 ジャズ演奏の次に幼稚園児の発表、というごちゃまぜなプログラム。園児たちの姿をひっそり観に来たのは学生時代、かつての親友・美里(太田しずく)をいじめて自殺に追い込んだ麻衣(山下リオ)。蒼(岡田将生)によってそのことが暴露された後、幼稚園の先生の職を辞したようだ。 フェス会場の片隅の特設ブースから地元FM「星降る錦糸町」を発信しているなみえ(濱田マリ)とかおる(光石研)。そのブースにまっさん(星田英利)が訪れ、蒼を放っておいたなみえを糾弾する。「MOROHAが観たいからもっと生きたい」と言っていたほどの、そのMOROHAのステージを観ることを放棄してまで。 「人に見てもらえなかった、見つけてもらえなかったの。だからよ、どうやったら見つけてもらえるかなって、ずっと考えてたんだろうな。だからあいつは自分みたいな思いしてる奴らのために動いたんだ」 そういってまっさんは、錦糸町の街中に貼られていたQRコードをばら撒く。気づいた蒼がまっさんをブース前から引き離すが、その様子を見ていた麻衣の母親(美保純)が衝動的に刃物を掴んで蒼に向け、結果まっさんを刺してしまう。 こんな衝撃の瞬間さえも、このドラマに特徴的な、少し遠くからの画角で映される。この突き放されたような距離感によって、かえってその場に居合わせたような感覚を味わった。
少しずつ変化しつつ続く錦糸町の日々
清掃会社「整理整頓」の3人のうち、当日のフェス会場にいたのは一平(落合モトキ)だけだ。彼は大助(賀来賢人)から社長の座を譲り受け、受付バイトの2人(奥津マリリ、日向ハル)を従えてこのフェスの清掃業務を請け負っているらしい。 「錦糸町フェス」から1年。当日もリハビリに精を出していた裕ちゃん(柄本時生)は自転車で配達ができるまでに。大助は心音(さとうほなみ)が渋谷に開店したカフェで一緒に働いている。彼らの関係は、確実に変わった。そして蒼は、しぶとく生きていたまっさんとともに駄菓子屋にいる。 「また来るからあたしのこと覚えててね」 蒼を気に入っている様子の子どもからそう声をかけられる。蒼はかつてのまっさんのように、子どもにとってのよりどころになりつつある。 まっさんが刺されたことはかなり劇的な事件だったはずだけれど、無事生き延びた今となってはそれほどのことではなさそうだ。293年生きていた人が294年目の人生を過ごすように、突然何かが途切れることもない。蒼と母親との関係はおそらく変わらないだろう。錦糸町に住む人々は、いろんなことをふんわりとかわしながら、暮らし続ける。 映像会社リアルフィクションの社長(今井隆文)は、飛んだ(仕事を無断で辞めた)あともフェスに関する撮影を続けていた安住(松岡広大)と再会し、本番も2人してカメラを回していた。当日の映像について「まっさんのおかげで大バズリだよ」と笑う社長。まっさんが生きていたからこそだけれど、不幸もこうやって笑えるものになる。 まっさんを刺した母は、蒼の暴露のせいで娘が仕事をなくしたことを恨みに思っていた。けれど、その暴露のおかげで美里の両親(板尾創路、菜葉菜)は長年の苦しみから解放されてもいる。そんな人たちが、お互いにそうとは知らずフェスに集っていた。善と悪も、幸と不幸も、簡単には決められない。