映画製作、公式シャツ、オブジェ、子ども綱引き…伝統を未来へ継承するために関係者は知恵を絞る。大切なのは「自分たちが楽しむこと」〈重文指定の川内大綱引は今㊦〉
長い伝統を誇る鹿児島県薩摩川内市の川内大綱引を未来に継承するため、これまで関係者は知恵を絞り、さまざまな方策を打ち出してきた。その一つが映画の製作だ。 【写真】22日開催の川内大綱引会場周辺交通規制
川内大綱引がテーマの「大綱引の恋」が地元で初上映されたのは2020年8月だった。製作を担当した「川内大綱引を継承する会」の堂園喜明副会長(74)によると、最初に話が出たのは約4年前。転勤で市外から訪れ、参加して大綱引に魅了された男性の発案だった。 「全国に発信して地域活性化につなげよう」と保存会が中心となり、川内商工会議所や市も動いた。国の重要無形民俗文化財指定へ、機運を高めたいという思いもあった。 多くの市民が協力した。エキストラとして参加したのは約400人。各地の店舗や事業所が撮影の舞台となり、県内の企業や個人からの協賛金は1億円に上った。米国の日本映画祭では2部門で最優秀賞を受賞。堂園さんは「見た人から、複雑なルールを初めて理解できたという感想をたくさんもらった」と語る。 ■□■ 年1回の川内大綱引だが、日頃から市民生活の身近なところにある。保存会は07年度から、自主財源確保のために公式シャツを販売。胸にロゴが入ったポロシャツやビジネスシャツ、背中に「綱」の字が書かれたTシャツがある。特に夏場は市役所や金融機関、飲食店などで多くの市民が着用する姿が見られ、市内では正装のような存在だ。ほかに綱をモチーフにしたオブジェは市内各地にある。
大綱引の未来を担う子どもたちを対象にした綱引き大会は毎年、市内各地で開催される。14日は川内川河川敷で、小学生約300人が太鼓の音を合図に熱戦を繰り広げた。川内小学校5年の知識和仁さんは「いつか一番太鼓になって、成長したかっこいい姿をみんなに見てほしい」と夢を膨らませた。 ■□■ 行事を裏で支える技術を次世代につなぐ取り組みも動き出した。365メートルの大綱の元となる縄は毎年、専用の機械で作るが、古いため維持や管理が課題だ。近年1人で作る松下四男さん(63)は8月、同種の機械を扱う県外の企業を視察。今後も安定して使えるよう、部品調達などについて教わってきた。製作現場では、跡継ぎ候補となる市内の若手を受け入れた。「1人で作るプレッシャーはすごい。若い子を育て、絶対に本番に間に合う確実な態勢をつくっていく」と次を見据える。 重要文化財指定を祝い市が6月に開いたイベントに、調査を担当した文化庁の職員が登壇した。大きな祭りを続ける上で大切なのは「自分たちが楽しむこと」と指摘。指定に向けては携わる人の表情も観察するといい、大人が本気になり、勝負にこだわる川内大綱引を「非常に素晴らしい」と述べた。