『チャレンジャーズ』若さという呪縛、人生の短さからの爽快な離陸
トライアングル
ルカ・グァダニーノは3人をフレームに収める際、タシを中心としたトライアングルの構図を徹底させている。エルンスト・ルビッチ監督の『生活の設計』(33)やビリー・ワイルダー監督の『お熱いのがお好き』(59)、フランソワ・トリュフォー監督の『突然炎のごとく』(62)等、三角関係を描いた名作は多数あるが、『チャレンジャーズ』の三人のキスシーンには、ルカ・グァダニーノの尊敬するベルナルド・ベルトルッチ監督による『ドリーマーズ』(03)のキスシーンをユーモラスに発展させたような楽しさがある。ベルナルド・ベルトルッチも官能を探求した映画作家だった。 3人はテニスのラリーをするように言葉を打ち返す。口論さえラリーのようであり、そこには探り合いや挑発がある。パトリックが刺激を投下する。挑発することでエネルギーが生まれる。トレント・レズナー&アッティカス・ロスによるエレクトロミュージックが言葉のラリーを加速させていく。脈を打つように。官能はまさしく“言葉のテニス”に宿っていく。タシはこのゲームの規則を予め知っているかのように振る舞う。10代の彼女はすべての支配者だ。あらゆる関係性において優位に立てることを知っている。そして30代になってもカリスマ的な存在であり続けている。しかしそのエネルギーはゆっくりと失われていく。パトリックだけが10代の頃のエネルギー、瞬間最大風速をかろうじて保ち続けているように見える。だがそれもあの頃と同じにはならない。肉体は10代の頃のフレッシュさを取り戻せない。 カメラに向かって飛んでくるようなド迫力のラリーは、この映画の若さ、エネルギーをぎりぎりのスリルで伝えてくれる。しかしラケットでボールを打ち返す快音のように爽快だった映画にも深い影が落ちていく。若く才能に溢れていた3人のそれぞれの別れ道。若さの喪失は3人に平等に訪れる。やがてマッチポイントがやってくる。そこに答えはない。いや、それでも幸福な決着は必ずどこかにあるはずなのだと、ルカ・グァダニーノは満面の笑みで主張する。真に情熱的で真に官能的な瞬間を祝福する歓喜の輪が突如として生まれる。その瞬間、私たち観客は若さという呪縛、人生の短さという地平から爽快に離陸する。ああ、人生のバカバカしさよ。あなたと喜びを分かり合う以外のことなんて、心底どうだっていいことじゃないか。この映画は一瞬だけでもそれがこの世界の真実だと思わせてくれる。なんと爽快で希望に溢れた映画なのだろう! *『チャレンジャーズ』プレス資料 文:宮代大嗣(maplecat-eve) 映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。 『チャレンジャーズ』 配給:ワーナー・ブラザース映画 絶賛上映中 ©2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. ©2024 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. All Rights Reserved.
宮代大嗣