仲間3人を失った人形劇団 東日本大震災後に「私たちもやりたい」…背中を押したのは
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。 【画像】「ポレポレ」の人形劇のようす 人形も舞台も、すべて手作り
人形も舞台もすべて手作り
「さあ、人形劇が始まるよ~」 軽快な音楽にあわせて舞台上に可愛らしい人形が登場すると、会場に詰めかけた約30人の子どもたちの目が一斉に輝き始める。 岩手県陸前高田市のアマチュア人形劇団「ポレポレ」の地域公演。 人形や舞台がすべて手作りだ。発泡スチロールの頭とペットボトルの体。 人形たちは魂を吹き込まれたように、生き生きと舞台上を跳ね回る。 脚本もオリジナル。会場の反応を織り交ぜて、物語を一緒に作り上げていく。 主人公のピンチには応援する子どもたちの悲鳴が飛び、チャンスにはどっと明るい笑い声があふれる。 「子どもたちの笑い声に勇気づけられています」 舞台袖で、馬場幸子代表(64)がうれしそうにほほ笑む。 劇団は1992年、アマチュア人形劇の面白さに感動した馬場さんが、子育てサークルの主婦ら15人に声を掛けて設立した。 人形劇で子どもたちの豊かな心を育みたいと、週1回集まって練習を重ね、公演を続けてきた。
東日本大震災、仲間3人が犠牲に
いつまでもみんなで、人形劇を演じていければ――。 そんな夢を抱いていた2011年3月、東日本大震災が起きた。 津波は高台に建てられていた馬場さんの自宅まで押し寄せてきた。 「波はノンノンと静かに迫ってきた。あっという間に水位が上がり、足をすくわれた」 裏山へと流され、もうダメだと思ったが、木につかまって辛うじて助かった。 夫や娘は無事だったものの、自宅や職場は全壊。 何よりつらかったのは、当時9人いた劇団員のうち、3人が犠牲になったことだった。 「数日前に笑いながら話をした仲間でした。どれほど生きたいと思ったか。その無念さを思うと、いまも胸が締め付けられます……」