神戸がロティーナ新監督初陣でも泥沼の10試合連続未勝利…課題の守備システムに手をつけなかった理由とは?
セレッソがやや引き気味になり、カウンター狙いにシフトした後半は主導権を握ったように映った。しかし、ボージャンやヴェルディ時代に指導したMF井上潮音(24)を投入するも零封負けを喫した初陣を、ロティーナ監督はこう総括した。 「前半はディフェンス面でちょっとした乱れが生じて、セレッソがプレーしやすい時間を長くしてしまった。時間がなかった状況で、今日の試合が自分たちを改善していくために有益な材料になる。今日の試合から学んだこと、見えたことを、チームを改善するために落とし込むところで材料として上手く使っていきたい」 指揮官の脳裏には、巻き返すための青写真も描かれている。 タイ東北部のブリーラムを舞台に、16日から5月1日までの16日間で6試合を戦うACLグループステージを、ロティーナ監督は「早くタイへの遠征が始まってほしいと願っている」と待ち望み、さらにこんな言葉を紡いだ。 「もちろんACLという大会で結果を残すことは重要だが、同時にこの期間を使ってチームをしっかりと成長させることもすごく重要だ。ACLで結果を残しつつ、この16日間が終わって日本に帰ってきたときにより自信を持って、より安定してプレーができるチームを築き上げる。それを今回の目標として、自分はとらえている」 3月のACL東地区プレーオフを勝ち抜き、2度目の本大会出場を決めた神戸はグループJで、上海海港(中国)、傑志(香港)、チェンライ・ユナイテッド(タイ)とそれぞれ2試合ずつを、すべて中2日という過密スケジュールで戦う。 試合翌日の練習が必然的にクールダウンにあてられるなど、タイで与えられる時間は限られている。しかし、寝食をともにできる環境でミーティングなども駆使しながら、自身の戦術を浸透させられる絶好の機会だと指揮官は位置づけている。 決勝トーナメント進出を果たす上で、最大の強敵は上海海港となる。しかし、国内の不動産大手「中国恒大集団」が日本円にして総額30兆円を超える負債を抱えた影響で、中国スーパーリーグでも大半のクラブが財政難に陥っている。 実に7割以上のクラブで給与の未払いが生じていて、財政難からか長春亜泰はACLへの参加を辞退している。山東泰山、広州FC、そして上海海港は参戦こそするものの、陣容を経験の浅い若手にシフトさせたと中国メディアでは伝えられている。 追加登録がある関係で直前までわからないが、中国勢の戦力がダウンすれば、日本勢にとっては追い風になるだろう。それでも、真剣勝負の公式戦で油断は禁物であり、ましてや神戸は集中開催されるタイのクラブと同組になる。 イニエスタのコンディションにも不安を残す。2日の京都サンガF.C.戦でフル出場、6日のFC東京戦では後半13分までプレーしたがゆえに、セレッソ戦のハーフタイムに交代を志願したとすれば、ACLでの起用も考慮しなければいけない。 ACLで勝利を積み重ねてのグループステージ突破と、自身の戦術を浸透させてのチーム作り。タイを舞台に“二兎”を追うと宣言したロティーナ監督だが、万が一、ことわざ通りに“一兎をも得ず”となった場合に支払う代償は大きい。 特にACLに関しては、神戸の会長を務める楽天グループのトップ、三木谷浩史氏が神戸の優勝を踏まえながらこんな言葉を残しているからだ。 「アジアでナンバーワンの実力を持ったクラブになるとともに、やるからには非常に魅力的な、かつサステナビリティーなクラブを作っていきたい」 決勝トーナメントに駒を進められずに姿を消す事態を迎えてしまえば、三木谷氏の逆鱗に触れる可能性はゼロではない。開幕連続未勝利でクラブワースト記録を更新してきた過程で失われた自信を回復させながら、いかに守備を立て直し、さらに攻撃につなげて、なおかつ結果も残せるか。非常に難しい挑戦となるのは間違いない。 それでもロティーナ監督は、揺るぎない信念に基づいてこう語った。 「今シーズンにおいてタイでの16日間が、一番重要な時間だと自分は考えている。なので、1分1秒を大事にしたい」 帰国後の初陣となる5月8日のガンバ大阪戦(パナソニックスタジアム吹田)は、おそらくJ1の最下位で迎えるだろう。J2降格への恐怖もちらついてくる状況で、今シーズンにおける神戸の浮沈がかかったタイでの日々が間もなく幕を開ける。 (文責・藤江直人/スポーツライター)