「2024年コミックBEST5」マンガライター島田一志・編 1位は五十嵐大介が描く「鎌倉」と「猫」にまつわる幻想的な物語
▪️2024年コミックBEST5(島田一志) 第1位 『かまくらBAKE猫倶楽部』五十嵐大介(講談社) 第2位 『佐々々奈々の究明』森泉岳土(小学館) 第3位 『DOGA』武田登竜門(双葉社) 第4位 『THE BAND』ハロルド作石(講談社) 第5位 『呪術廻戦』芥見下々(集英社) 【画像】SFやミステリの名著が原作ーーWeb漫画業界に新たな波を呼ぶ「ハヤコミ」 2024年、注目すべき漫画はいくつもあったが、その中でも特に印象に残っているのは上記の5作品。 第1位から第3位までの順列はあってないようなものだが、ひとまず1位には、五十嵐大介の『かまくらBAKE猫倶楽部』を選んだ。 『かまくらBAKE猫倶楽部』は、タイトル通り、「鎌倉」と「猫」をテーマにした短編の連作集。主人公はガクトとマヤというふたりの青年で、彼らが勤める雑貨店を訪れた人々が、鎌倉と猫にまつわるちょっと不思議な話を語り出す……。 ボールペンによる五十嵐大介の細かい線の連なりは、独特な味わいと温かさを秘めており、夢と現実(うつつ)の境目(さかいめ)を曖昧にするような物語を見事に描き出している。夏目漱石『夢十夜』や、内田百閒の幻想小説が好きな人はきっとハマることだろうが、五十嵐大介の作品でいえば、初期の傑作『はなしっぱなし』に収録されている短編群と近い雰囲気がある。 第2位は、森泉岳土の『佐々々奈々の究明』。作家・佐々々奈々(さささ・なな)とその妹、流々(るる)のコンビを主人公にした本格ミステリ・コミックだ。 森泉岳土も前述の五十嵐大介同様、描線に特徴のある漫画家だが、こちらの場合は、水をつけた筆で引いた線(いわば「水の線」)の上に墨を落とす、といういささかトリッキーな手法を用いている。細かい部分の線については、爪楊枝や割り箸などを使って引いているようだが――これは昔の中国の指頭画(しとうが)の手法に近いともいえるが――いずれにしても、漫画の表現としてはかなり斬新なヴィジュアルを生み出しているといえよう。 また、森泉については、来年1月、スタニスワフ・レム原作の『ソラリス』上下巻が刊行予定。こちらにも期待したい。 第3位の『DOGA』は、『BADDUCKS』、『大好きな妻だった』などで知られる武田登竜門による壮大なファンタジー。 “すべて”を失い、機械の体にされてしまった青年貴族(ヨーテ)と、貧民街で暮らす孤独な怪力少女(ドガ)が出会い、物語は動き出す。旅に出た2人が探し求めるのは、遥か彼方にあるという「海」が象徴する「自由」だ。これは武田登竜門の他の作品についてもいえることだが、男に守られるのではなく、「男を守るヒロイン」の生き様が痛快である。 第4位の『THE BAND』(ハロルド作石)は、ギターと音楽がつなぐ少年2人の友情の物語。2024年12月に始まったばかりの新作だが、面白い漫画というものはだいたい第1話を読めばわかるので、選んだ。 ちなみに、本作は、ハロルド作石にとって、「『BECK』完結から約16年ぶりのバンド漫画」ということらしいのだが、やはり、“少年がギターを手にした瞬間の無敵感”を描かせたら彼の右に出る者はいない、と思った。 第5位は『呪術廻戦』(芥見下々)。いまさらランクインさせるまでもない大ヒット作だが、2024年9月に完結。主人公たちの成長と未来を描いた圧巻のエンディングであり、今年の漫画界を大いに盛り上げてくれた作品の1つとして、名前を挙げておくことにした。同じ理由で、赤坂アカと横槍メンゴによる『【推しの子】』も評価したい。
島田一志