井上芳雄が「録画して何度も観た」自身とミュージカル界を繋いだ“大きなきっかけ”とは?〈前篇〉
日本で上演されるチャンスがあればやりたい、胸を躍らせるような作品に出合える
――映画でおなじみの方も出演していると、トニー賞やブロードウェイのミュージカルを知らなくても楽しめますね! そうです! 「あ、映画でもこの人、見たことある!」となりますからね。あとは、今年も“ジュークボックス・ミュージカル”とか“マッシュアップ・ミュージカル”と呼ばれるものがノミネートされています。 それが、アリシア・キーズが企画から楽曲まで手掛けた『ヘルズ・キッチン』。僕が昨年、そして今年も出演させていただく『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』もそうなのですが、もともとあるポップスでヒットしているものを集めてミュージカルにして、そこに物語を見つけて、ミュージカル作品として上演するというものです。古いところでいうなら『マンマ・ミーア! 』なんかがそうですね。 ――『ヘルズ・キッチン』はノミネート数も多い印象です。 はい。全部で13ノミネートを受けていて、とても評価が高いようです。そういった、好きなアーティストの曲が使われている、というのもミュージカルに触れる一端になるはず。 だから、意外とノミネート作品を知らなくても、授賞式そのものを楽しむことは十分にできると思うんですよね。 ――井上さんは、どんなことに気を配りながら、現地の様子を視聴者の方に伝えようと思っていらっしゃいますか? 門戸は広く、まったく海外のミュージカルや演劇が分からない方にも分かりやすく伝えていきたいと思っています。ですが、僕たちもブロードウェイの新作に対して知識が十分ではないので、毎回専門家の方が参加してくださいます。 同時に、アワードや賞というのは“歴史”でもあるんですよね。この人は何回も受賞しているとか、ずっとノミネートされていたけれど一度も受賞したことがなくて、今年初めて受賞しましたとか、そういう裏側のドラマも一緒にお伝えできたらいいですね。 例えば、トランスジェンダーで初めての受賞者というのが最近もありました。そういった現在の流れなどもお話しできたら、賞がさらに意味のあるものになると思います。 ――井上さんご自身も、トニー賞を受賞して、そこから日本での上演が叶った作品に多く出演されていると思います。トニー賞受賞作品を演じるうえでのプレッシャーなど、感じていらっしゃることを教えてください。 日本のミュージカル俳優はみんなトニー賞を見ながら、「自分はどの役ができるかな」「この作品やりたいな」というふうにチェックしていると思います。それは、きっと市村正親さんのような大先輩から、僕たちに至るまで皆が固唾を飲んで賞レースを見守っているわけです。 でも、同時に「やりたい」と思ったからと言って、できるかどうかはまた別の問題。そればかりは、やはりご縁なので、思ったようにはいかないんですけれどね。僕も10年ほどトニー賞授賞式に関わらせてもらっていますが、去年から出演している『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』は、番組でニューヨークの稽古場を取材させてもらったんです。 そのときは、自分がやるやらないはもちろん、日本での上演もまだ決まってない頃。ブロードウェイで上演される前の稽古場で小道具の説明を受けたりしました。今、自分がその小道具を使っているのを見ると、巡り合わせは感じますし、夢が叶ったという感覚もあります。『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』もトニー賞授賞式で紹介して、当時は自分がやるとは思ってなかったですが、ご縁がありましたね。作品との出合いは本当に一期一会です。 井上芳雄(いのうえ・よしお) 1979年7月6日生まれ、福岡県出身。東京藝術大学在学中の2000年にミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役で鮮烈なデビューを飾る。“ミュージカル界のプリンス”と呼ばれ、デビューから現在に至るまで、数多くのミュージカル作品に出演。ストレートプレイにも積極的に出演するなど、活躍の場を広げている。2021年からは『はやウタ』(NHK総合)で自身の歌番組のレギュラー司会を務め、2022年からは『行列のできる相談所』のMCとしても活躍。代表作に『エリザベート』(ルドルフ役・トート役)、『ナイツ・テイル ―騎士物語―』(パラモン役)、『ガイズ&ドールズ』(スカイ・マスターソン役)、『ラグタイム』(コールハウス・ウォーカー・Jr.役)など。『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』(6月20日~8月7日東京・帝国劇場/9月14日~28日大阪・梅田芸術劇場メインホール)では昨年に引き続き、クリスチャンを演じる。
前田美保