両腕で歩くミャンマーの牧師と合気道開祖の「最後の内弟子」 Vol.30
まさに「地獄」の様相を呈している――2021年に発生した軍部によるクーデター以降、ミャンマーでは軍事政権の国軍(ミャンマー軍)と、軍事組織としてのKNLAを有するKNU(カレン民族同盟)やカチン州、シャン州、カヤ州などの武装勢力が組織した反政府(反軍事政権)の連合的武装組織PDFの戦闘が激化している。今年に入り、軍事政権はついに18歳以上の国民を徴兵するとまで発表した。 2024年現在、ミャンマーに向けられる視線は「反民主的な軍事政権VS民主化を求めるレジスタンス的武装勢力」の構図一色に塗りつぶされているが、はたしてクーデターが発生する前のミャンマー、そのディテールに目を向けていた者がどれほどいただろうか。 本連載は、今では顧みられることもなくなったいくつかの出来事と、ふたつの腕で身体を引きずるように歩くカレン族の牧師を支えた日本人武道家を紹介するささやかな記録である。
日本庭園「合気苑」にたなびく星条旗
本間が日本館総本部に設置した「日本伝統民具展示館」は、杉本社長が創設した「小川原民族博物館」を参考にしたものだ。 情緒ある囲炉裏と床の間、そこに鎧甲と日本刀を飾った。その展示館の中には秋田県東成瀬村との交流の際に収集した古い農耕具や簑(みの)、或いは雪山を歩いたガンジキなどの伝統民具類を中心に、日本各地の古い漆塗りの食器類など約2000点を展示されている。 日本伝統民具展示館とDOMOレストランに隣接して、約300坪の日本庭園「合気苑」も作った。この合気苑は故斉藤守弘師範の監督指導のもとに造園されたものであり、日本風の松の木々を植え、太鼓橋を架けた池も作った。 春には桜が咲き、五月に青空には鯉のぼりが泳ぐ。秋は紅葉の紅葉も眺められる。夜になればかがり火が焚かれ風情のある庭園となる。この本格的日本庭園の野外レストランで、客は本間シェフが工夫を重ねて考案した居酒屋風日本料理の数々に舌鼓を打つことになる。 その日本庭園「合気苑」に、本間は高いポール(国旗掲揚塔)を立て、大きな星条旗を掲げた。日本館総本部建設に多大な貢献をしてくれたアメリカ人門下生に対して、本間が表した最大の感謝の気持ちであった。 改めて日本館総本部の全貌を紹介しよう。4000坪の敷地に総本部は建設された。160畳の大道場、120席の居酒屋風「DOMOレストラン」、約300坪の日本庭園「合気苑」、日本伝統民具展示舘、6室の内弟子部屋及び本部事務所。 この日本館総本部は1995年に完成した。本間45歳の時だった。ここから「本間学物語」の第二幕が上がる。