シャンパーニュ「サロン・ドゥラモット」の新作ヴィンテージがパリの「茶懐石秋吉」で公開。その味わいはいかに?
稀少さゆえに“幻のシャンパーニュ”と讃えられる「サロン」と、その妹とも呼ばれる「ドゥラモット」。世界のシャンパーニュ通の憧れの的である2つのシャンパーニュの新作が公開された。10月30日の秋晴れ、エッフェル塔のお膝元、パリ15区の閑静な住宅街に佇むフランス初の茶懐石店「茶懐石 秋吉」でのお披露目会をレポートする。 【写真を見る】お披露目の様子をチェック!
類まれなるシャンパーニュ「サロンとドゥラモット」
シャンパーニュの名門「サロン」と最新ヴィンテージである「サロン2013」と「ドゥラモット」の新作「ドゥラモット・ミレジム・ブラン・ド・ブラン2018」が、10月末にパリでお披露目された。 シャンパーニュの殿堂に君臨する「サロン」の誕生は、20世紀初頭、メニル・シュール・オジェの丘で、一人の男の情熱から始まった。毛皮商だったエメ・サロンが趣味で造り上げたシャンパーニュは、たちまち上流階級の間で話題となり、正式なシャンパーニュ・メゾンとして1920年に創立された。単一畑のシャルドネのみを原料とし、自然の恵みと人間の情熱が織りなす芸術品は、その希少性から幻のシャンパーニュと称され、永遠の憧れとして人々を魅了してやまない。 一方、サロンが生産されない年のブドウで作ったシャンパーニュが「ドゥラモット」だ。価格はサロンより控え目ながらも、その味は愛好家たちから“サロンの妹”として親しまれるほど、美しい華やかさを持ちあわせている。 今回、2本のボトルのお披露目はパリのミシュラン1ツ星の日本料理店「茶懐石 秋吉」にて行われた。店主の秋吉雄一朗は京都・南禅寺にある料亭「瓢亭」での修業と、在パリOECD大使公邸での料理長経験を持つ実力派。自然の風味を最大限に引き出した繊細な懐石料理でパリジャンたちの舌をあっと言わせてきた。会席者は「サロン・ドゥラモット」の社長であり醸造長のディディエ・ドゥポンのほか、フランスの大手紙や専門誌のワインジャーナリストとフランスを代表するソムリエの10数名。参加者の誰もが大変なワイン通である。 ■マグナムこそ至高 アペリティフはマグナムの「ドゥラモット ブリュット」からスタートした。すき通った明るい光沢のある色合い。柑橘系の爽やかなアロマと、生き生きとした酸味が、口中で軽やかに踊る。誰もが顔をほころばせて、一気にその場が和む。食卓に席を移すと、品書きには懐石の献立の横にペアリングされるシャンパーニュが名を連ねていた。 この日特筆したいのは、750mlのブテイユと1500mlのマグナムボトル、異なるサイズのワインを飲み比べる試みが実施されたことだ。同じワインでも、ボトルサイズによって熟成は異なる道筋を辿るそうだ。ブテイユとマグナムでは、どのような味わいの変化が生まれるのだろう? 本日のゲストでトップソムリエのパズ・ルバンソンは、こう述べた。「ボトルサイズがワインの熟成に与える影響はブテイユとマグナムでは大きく異なります。特にシャンパーニュにおいて、マグナムは最適なサイズであり、そのポテンシャルを最大限に引き出します」 「サロン2013」は白い花や柑橘の香り、メニル・シュール・オジェのテロワール特有のミネラル感が特徴だ。口に含むとヴィンテージの温かさが感じられ、焼きりんご、ローストしたヘーゼルナッツ、塩キャラメルのまろやかで丸みのあるアロマが広がる。豊かで長い余韻と絶妙なバランス、抑えた力強さが際立っている。 ■シャンパーニュと茶懐石料理の相性 「ドゥラモット・ミレジム・ブラン・ド・ブラン2018」には、クレソンとクレモンティーヌの松の実和えの小鉢がサーブされた。シャンパーニュの繊細な酸味が、クレソンの土っぽさを際立たせ、みずみずしい柑橘類の甘みとナッツの香ばしさで包み込む。マグナムの方がいささか、まろやかな口当たりといえるのだろうか。 そして、この店のスペシャリテである〆サバ寿司が登場した。目の前で皮目を炭火で炙るパフォーマンスは、静寂に包まれた空気を一瞬にして華やかに彩る。ともにサーブされた「サロン2006」は、芳醇な風味とフレッシュ感が見事に調和し、サバのスモーキーで深みのある海の香り、磯のミネラルが織りなすハーモニーが格別だ。スモークがモクモクと立ちこめる視覚的な演出や辺り一帯を包み込む香ばしい香りが五感を刺激し、誰もが視線を一点に集中する。 続いてサーブされた冷たい唐墨そばと「サロン2006」の組み合わせは、シンプルながらもまろやかでうっとりするほど快い。それぞれの素材が際立つ個性を放ち、「サロン2006」ならではの複雑なニュアンスと見事に調和。まさに記憶に残るペアリングだった。 食事の最後を飾ったのは茶道のセレモニーだ。全員の視線が一点に集中し、茶道の精神にワイン愛好家たちが息をのむ瞬間だった。そしてワインジャーナリストたちの口からは次々と「繊細で優雅だ」、「信じられない!」と感嘆の声が上がる。 「シャンパーニュがある場は、いつも特別な輝きを放ちます」そう語るのは、「サロン・ドゥラモット」の社長ディディエ・ドゥポン。「シャンパーニュと日本料理との相性は格別で、それぞれが絶妙なハーモニーを織りなします。力強くエレガントな香りと繊細な味覚、日本料理とシャンパーニュのマリアージュは両思いの関係だと私は思います」 さらに、シェフの秋吉は続けた。「シャンパーニュはもともと日本料理との相性が良く、自然と組み合わせがしやすいのです。今回は柚子の香りをアクセントに加え、清涼感を演出しました。さらに後半は、和牛やサバ、炭の香りといった深みのある香りで構成し、シャンパーニュの爽やかさとリッチな余韻が際立っています。同じメゾンのシャンパーニュでも、ヴィンテージは当然、ボトルサイズでも異なる個性があり、それぞれの微妙な違いを楽しむことで、唯一無二の体験をご提供できたと思います」 見た目の美しさや芳醇な香り、余韻の長さまでもが高く評価され、まるで別次元の体験を共有したかのようだ。まさに日本料理にシャンパーニュを合わせることが、新しい時代にふさわしい食文化として受け入れられつつあると、強く感じた瞬間だった。
文・魚住桜子 編集・岩田桂視(GQ)