最大の役目は、『毎試合、同じものをつくること』。カープのグラウンドキーパー・石原裕紀氏のこだわり
◆「梵さんからかけられた、忘れられない言葉」 そして、試合が終われば今度はマウンドやバッターボックスを綺麗に均す作業が始まります。マツダ スタジアムのマウンドとバッターボックスは、硬くするためにアメリカから取り寄せた粘土を使用しているのですが、そこに穴が空いていれば粘土を補充するのも大切な仕事の一つです。グラウンドの荒れている場所や、土が偏っている場所をある程度トンボで均したら、今度は同じ柔らかさになるように土をほぐして、それが終わったら今度はローラーを使って土を固めて……。固めすぎてもいけませんし、これも季節や気候によって条件が変わりますから、いろいろと計算しながら作業をしなければなりません。 昔、当時選手だった梵(英心)さんに言われた言葉で印象に残っているのは「運動靴とスパイクでは、踏んだ感触が違うんだ」ということです。実際にスパイクを借りて土を踏んでみたら、確かに違います。ですから、少しでも選手の感覚に近づけるようにと思って、毎日のように選手に「今日はどうですか」と声をかけるようにしています。選手のみなさんからすると、しつこいかもしれませんが……(苦笑)。 ただ、僕たちもプロですから、適当な仕事をするわけにはいきません。時間をかけて感覚を研ぎ澄ませて、天気や気候、土の柔らかさや水加減を覚えてきました。それでも正解はないというのが、グラウンドキーパーという仕事の難しさであり、やりがいでもあると思います。選手から「あのグラウンドは良かったよ」と聞けば研究したり、どんな用具を使っているのか調べてみたり、チームの垣根を超えて情報交換をすることもあります。球場によって人工芝をつかっていたり、黒土を使っていたり、本当に多種多様です。奥の深い仕事でもあると感じています。 僕がグラウンドキーパーとして心がけているのは、「毎試合、同じものをつくる」ことです。昨日と今日とでグラウンドの状態が大きく違ってはいけません。同じものをつくり続けるために、天気や季節にあわせてやり方を変えなければなりません。「保つ」と言い換えても良いかもしれません。 僕にとってマツダ スタジアムは、『一緒に成長してきた』と言える場所です。新しい技術を取り入れても、「本当にこれで良かったのか」と考えながら、試行錯誤を繰り返してやってきました。こちらが工夫をしてやればやるほどグラウンドも変化してくれるので、相棒のような感じかもしれません。 選手にケガなくプレーしてもらうためにも、僕たちが手を抜くわけにはいきません。マツダ スタジアムに試合を見に来てくださったお客さんから「いつもグラウンドが綺麗だな」と言っていただけるのであれば、僕たちも誇りをもって仕事に取り組むことができます。手を抜くことなく仕上げる、同じ品質を保つ。追求すればするほど難しいものだとは思いますが、その分もっと良いものにもできていくと思っています。 天気によっては本当に難しい作業になるのですが、その分、試合が成立したときはうれしいものです。ある試合のヒーローインタビューで秋山(翔吾)選手が「グラウンドキーパーさんのおかげで試合ができた」と言ってくださったこともありますが、このような言葉をかけてもらえるとやはりうれしいです。 僕たちも選手と一緒に戦っているという思いを持っているので、これからもチームや選手を支えられるように、日々進化を続けていきたいと思います。 ■石原裕紀(いしはら・ゆうき) 1981年5月27日生まれ、島根県出身 浜田商高から2000年にカープに入社。旧広島市民球場時代からグラウンド整備を中心に担い、選手の足元から試合を支えている。マツダ スタジアムを始め、キャンプ地や二軍戦の球場などにも帯同。25年間、グラウンドキーパー一筋でチームに貢献するプロフェッショナルだ。
広島アスリートマガジン編集部