『交通事故鑑定人 環倫一郎』で人気のクルマ好き漫画家・樹崎聖の『オートモビルカウンシル2024』見聞録「前編:なにはなくともガンディーニ追悼」
幕張メッセ駐車場に愛車のアルピーヌA110Sで登場
4月12日の朝、待ち合わせ場所の幕張メッセ駐車場で待っていると、新車のルノー・アルピーヌA110Sで樹崎さんは颯爽と登場した。聞けば、つい先日購入したばかりだという。「お久しぶりです。いや~、ついにA110買っちゃいました。すごく楽しいクルマですよ。サイコーです!」と挨拶代わりに彼の愛車紹介を聞く。 「運転してつまらないクルマは買わない」と常日頃公言している樹崎さんの愛車遍歴は、オートザムAZ-1から始まり、そのほとんどすべてが軽量コンパクトなスポーツカーばかりだ。エンスー原理主義を患う筆者のような面倒くさい人間からすると、RRレイアウトを捨て、ミドシップになったアルピーヌには若干思うところがないでもないのだが、「クルマは走らせてナンボ」の樹崎さんには過去は過去、現在は現在と割り切っているようで、「昔のA110に特別な思い入れがあって買ったわけじゃないですからね。このクルマを気に入って惚れ込んだから買った。ただそれだけですよ」と爽やかな笑顔で語る。こういうサッパリしたところがこの人らしくて好ましく思う。 歩きながら近況や最近のクルマのことなどを話しつつ、受付を済ませて幕張メッセホール9/10のゲートを潜る。すると、眼下には古今東西の名車の数々が並んでいる。さて、どこから回ろうか? エスカレーターを下りつつ樹崎さんに意見を求めると「そりゃガンディーニでしょ!」と間髪入れずに答えが返ってきた。
マルチェロ・ガンディーニ追悼展に興味津々クリエイターらしい感性で優れたライティングにも言及
マルチェロ・ガンディーニについては今更多くを語ることはないだろう。フリーランスを経てジョルジェット・ジウジアーロの後任としてベルトーネのチーフデザイナーとなった彼は、ミドシップ・スーパーカーの元祖となったランボルギーニ・ミウラを皮切りに、エスパーダやカウンタック、ウラッコ、ランチア・ストラトス、フィアットX1/9などの数多くの名車のスタイリングを手掛けた。1979年にベルトーネを離れてフリーランスとなり、シトロエンBXやルノー・シュペール5(サンク)、25(ヴァンサンク)などの大衆車をデザインしたほか、ランボルギーニ・ディアブロやブガッティEB110などのスーパースポーツのスタイリングを担当した。 マルチェロ・ガンディーニ(1938年8月26日~2024年3月13日) オーケストラ指揮者の子としてトリノに生を受ける。1950年代後半からフリーランスのデザイナーとして活動を開始。1965年11月にジョルジェット・ジウジアーロの公認としてベルトーネのチーフデザイナーに就任。ランボルギーニ・ミウラやカウンタックなど1970年代後半までのベルトーネデザインの多くが彼の手によるものとなる。1979年にベルトーネを辞して再びフリーランスとなる。その後、シトロエンBXやルノー・シュペールサンク、大型トラックのルノーAE/マグナム、ランボルギーニ・ディアブロやブガッティEB110などを手掛けた。デザイナー業務だけでなく、トヨタや三菱、スバルのデザインコンサルティングを務めた。2024年3月没。 今回、会場にはガンディーニの作品からランボルギーニ・ミウラP400、カウンタックLP400、エスパーダ・シリーズ2、ランチア・ストラトスHFストラダーレ、ディーノ308GT4の5台が展示されていた。 スポーツカー好きの樹崎さんはブース前で立ち止まり、それぞれの展示車をじっくりと見ていた。樹崎さんのお気に入りはストラトスのようで「何回見てもこのクルマのスタイリングは斬新ですよね。ラリーを戦うために生まれたクルマなわけですが、それにしてもよくこんなカタチを生み出したものだとつくづく思いますよ」と語る。 ストラトスを見つめていた樹崎さんであったが、何かに気がついたのか「おや?」と呟いてカウンタックを挟んで並べられていたミウラに近づいて行く。「カーショーや博物館で何度となく見てきたはずなのに……こんなにミウラって魅力的なクルマだったかな?」と呟いた。 沈黙の時間が暫し流れたあと、何かに気がついたように言葉を発した。 「そうか、ライティングか!」 会場端のスペース故に天井からの光量は決して充分なものとは言えないのだが、それを補うように床に置かれたスポットライトがボディ側面を照らしたことで陰影がはっきりしてボディラインがくっきりと映し出されている。 「この照明が絶妙なんですよ。大抵のモーターショーに展示される車は天井からの数々のライトに満遍なく照らされてキラキラはしていますが、今回の展示ではガンディーニのデザインを魅せるために意図的であったのでしょうね。会場の端のという展示立地の悪さを逆手に取って、真上のライトがない状態であったことでクルマの持つ本来の造形的美しさを際立たてるように光の演出を施したと。人間の顔をカッコよく写真に撮ろうと思ったときも片側からのライトを強くすることで鼻筋など造形をはっきりさせて撮るるように……。これはプロの仕事ですね。どうしたらクルマの持つ本来の美しさを引き出せるか熟知したスタッフの手腕ですよ。おかげでミウラの魅力を再発見できました」 と何かに納得した様子で満足気に語る樹崎さん。 たしかにこのミウラは美しい。コンディションの良さはもちろんのこと。光による演出も華を添えていた。「全体に明るくライトが煌めくライティングは煌びやかではあっても、クルマの造形をしっかり見せるという意味では褒められたものではないんですよね。ジャパンモビリティーショーなどの他のカーイベントでもその辺りの配慮もあるといいですね」と付け加える。 ガンディーニの作品と言えば、カウンタックに代表されるように直線基調のくさび型のスタイリングが特徴として挙げられるが、初期作品にはミウラのように柔らかな丸みを帯びたラインで形が作られていた。ちょうど1960年代から1970年代にかけてはカースタイリングはコペルニクス的転回を迎え、それまでの空気をやさしく馴染ませてそっと受け流すかのような丸みを帯びたスタイリングから、空気を切り裂いて前進するようなエッジの立った楔形へとトレンドが代わったのだ。 これは風洞実験による空力研究の成果とされているが、スポーツカーの性能が向上し、最高速度が300km/hの大台に突入しようかという時代となり、それにふさわしいスタイリング上のモチーフとして、その少し前から各国が戦力化し始めたマッハ2級のジェット戦闘機にインスパイアを受けたこともあったのだろう(カースタイリングが航空機から影響を受けることはよくあることだ)。 ミウラは旧世代のトレンドに従ったスタイリングで描かれており、その端緒となるアイデアはイソへのプレゼンを前提にジョルジェット・ジウジアーロがしたためたたミドシップ・スポーツカーのアイデアスケッチとの説もある。それ故にミウラから数年後に登場するカウンタックやストラトスと比べれば古典的なデザイン手法でまとめられており、最大の特徴であるはずのミドシップ・レイアウトをあえて主張しないかのようなFR的なプロポーションとなっている。近い時期にガンディーニが手掛けたアルファロメオ・モントリオールやエスパーダとの類似性もスタイリングからは見て取れ、大変興味深い。
【関連記事】
- 生産台数92台!日本導入はわずか6台!超希少なアルファロメオ・グランスポルト・クワトロルオーテを『CAFE DE GIULIA』で発見!!
- アメ車が200台以上大集合!!『SPRING Party!』で見つけたヒストリックカーからマッスルカーまで!人気モデルもレア車も一気に見せます!!
- トナーレにジュリア、ザガート……オートモビル・カウンシルで新旧アルファロメオを堪能! オールド・アルファは手放したら二度と手に入れられない!【旧車アルファロメオ・オーナーの現実 vol.2】
- 日産GT-R NISMO LMから遡ること88年、サーキットを駆け抜けたFFレイアウトのレーシングカー「Alvis FWDストレート8」【アルヴィス・ヒストリー:後編】
- 当時モノの新車が6000万円はお買い得!? 戦前に四輪独立懸架と世界初のフルシンクロメッシュ・トランスミッションを採用したFFレイアウトの高級クラシックカー「Alvis」を見よ!【アルヴィス・ヒストリー:前編】