ウクライナ戦争は戦争末期へ、ロシア軍の肉弾戦がいよいよ限界に
■ 5.第3段階:北部・東部に戦力集中、攻勢範囲も限定 第3段階は、2023年の1月から5月までと、同年の10月から2024年の4月までである。 ロシア軍は、ウクライナ軍の北部・東部の拠点陣地(要塞)を突破して占拠し、その後、ウクライナ軍の混乱に乗じてハルキウやドニプロ川まで突進する構想を立案していたのであろう。 ロシア軍は、この構想を実現させるために、「肉挽き攻撃」と呼ばれるほどの兵士の犠牲を厭わない攻撃を続行した。 現に、大きな犠牲を払って拠点陣地を突破して占拠するという成功を果たしたのである。 このとき、ロシア軍のバフムト攻撃とアウディウカ攻撃の間に、ウクライナ軍の反転攻勢があった。 図3 北部・東部に攻撃範囲を限定する攻撃構想(推測) ロシア軍は、バフムト攻撃とウクライナの反転攻勢を挟んで、アウディウカの拠点陣地に「肉挽き攻撃」と呼ばれる攻撃を行い、人海戦術で次から次への波状攻撃を行った。 反転攻勢を受けて防勢作戦を行った時は、損失が比較的少なかった。 だが、肉挽き攻撃を実施した時には、1か月間に2.3万~3万人の損失を出した。 現段階よりも少ない損失だが、第1・2段階よりもはるかに多い。 とはいえ、ロシア軍兵士の犠牲によりバフムトやアウディウカの要衝を占拠することができた。 この時期、ロシア軍はこの勢いでウクライナ軍の防御陣地を突破して、引き続き戦果拡張を行い、ドニプロ川まで突き進む攻撃構想を持った可能性がある。 だが、約20万人という大きな損失を出したものの、結果的にドニプロ川どころかドネツク州の境界までも進出することはできなかった。
■ 6.第4段階:ドネツク州全域の完全制圧へ 第4段階(現段階)は、2024年5月から同年12月までの期間である。 ロシア軍は、ウクライナのルハンシク州、ドネツク州、ザポリージャ州で攻勢し、主力はドネツク州全域を占領するように主に2つの方向から攻撃するという構想を立案し、実行している。 この攻撃は、ドニプロ川の線まで突進するものではなく、ドネツク州の境界線までを占拠する程度の攻撃衝力でしかない。 この間、ロシアはウクライナ軍にロシア国境での配備の弱点を突かれクルスク州に進攻された。 そして、ロシア軍はこのクルスク州の奪還を目指しているが、3か月が経過しているものの奪還できてはいない。 図4 ドネツク州全域を制圧する攻撃構想(推測) これまで攻撃していなかったハルキウ付近の国境から攻撃を開始するとともに、ロシア軍の主力をドネツク正面に集中して攻撃を継続した。 一方向からの攻撃は進み、ドネツクの境界まで接近しつつある。 だが、ドネツク正面の他の方向からの攻撃は進展せず、ドネツク境界までの到達を短期間に達成することは、これまでの戦況の推移から見て極めて難しい。 図5 ロシア軍のドネツク州とルハンシク州での戦果(2024年8月と2025年1月の比較) 2024年10月初め、ウクライナ軍はロシアの国境を突破して、クルスク州に進攻した。 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、早期に奪還すると発言していたが、奪還期間は次々と先延ばしになり、現段階では1月20日までと言うのだが、達成の可能性はほとんどない。 早くても今後数か月以内には、奪還できないであろう。 この段階の攻撃構想は、最も狭い範囲に設定されているようだ。 現段階では、ロシア軍はドネツク州の境界までが精一杯で、今後の戦果の拡張を考慮に入れても、ウクライナに兵器・弾薬の供給が行われればドニプロ川まで行ける可能性はない。 そして、この期間の損失は、1か月間で3.5万~4.7万人である。 2024年5~12月までで、32万人の損失を出している。1から4段階までを比較した場合、最も多いレベルである。