『クレイヴン・ザ・ハンター』の“狩り”が意味するものとは? 反転するキービジュアル
クレイヴンがしていることは「狩り」と言えるのか? 矛盾するその行動
2024年12月13日に日米同時公開となった映画『クレイヴン・ザ・ハンター』。『スパイダーマン』シリーズのヴィランを主役とした作品にふさわしく、そのキービジュアルは禍々しくまた雄々しいものである。毛皮の房のついた服を身にまとい、髑髏の山の上で椅子に腰掛ける筋骨隆々とした1人の男、クレイヴン……映倫でR15+指定を受けているのと合わせてバイオレンスなアクションを期待させずにおかない、強い男性性をこのキービジュアルから想起した人は多いはずだ。だが、本作を最後まで観終えたとき、このキービジュアルに抱く印象はおそらく正反対のものとなったことだろう。ここでは主人公のヴィランとしての名にしてタイトルにもなっている「ハンター」、すなわち「狩り」に着目しながらラストシーンとキービジュアルの重要性について語ってみたい。 【写真】殴りすぎだろ… マーベル“最凶”ヴィランの極悪戦闘シーン 最初に述べたように、クレイヴンは強い男性性を持ったヴィランである。彼を演じるため17キロ近く増量したというアーロン・テイラー=ジョンソンの肉体は野性的なしなやかさと強靭さを兼ね備えているし、秘薬による蘇生とその際混ざったライオンの血に由来するこのヴィランの強さはひたすらに身体能力の高さにある。地面に落ちたタバコのブランドをビルの屋上から見分ける、数メートルはあろうかという川を飛び越える、大の男2人に上からバーベルで押さえつけられるも逆にはねのける……公開されている冒頭映像ではこの身体能力を活かして刑務所内のギャングのボスを仕留めており、彼のハンターとしての優秀さをうかがい知ることができる。 ただ、冒頭映像部分でもう1つ注目すべきはこれが脱出劇でもある点だろう。彼はギャングのボスを狩るために囚人に化けて刑務所に潜入したわけだが、こんな事件を起こせば当然そこから逃げ出さなければならない。容赦なく発砲してくる刑務官たちの手に落ちないように、すなわち「狩られないように」脱出しなければならない。狩っているにもかかわらず狩られまいと必死に逃げもする、矛盾するハンターの姿がここには見え隠れしている。 いったい、クレイヴンは狩る側なのか狩られる側なのか? 矛盾を紐解く鍵はその過去にある。彼の本名はセルゲイ・クラヴィノフ。犯罪組織を束ねる父ニコライから後継者として期待されていたもののそれを拒絶、ロシアにあった母方の私有地へと家出した男だったのだ。成長したセルゲイはクレイヴンを名乗り密猟者やギャングといった連中を憎み悪党を「狩って」いくが、そこには母を死に追いやったことを気に病みもしない、悪事を哲学として息子に求める父から逃れたいという思いが――「狩られたくない」思いがあった。父にアフリカに連れられたときにライオンに襲われ、その血を体に受けた影響で驚異的なパワーを手にした彼は肉体面でこそ圧倒的に「狩る側」だが、精神面ではむしろ狩られまいと逃げ続けているのが実情なのである。