美しい秋のグラデーション 紅葉に染まる雷山千如寺大悲王院/福岡県糸島市
福岡県糸島市にある雷山千如寺大悲王院の鮮やかな紅葉が注目されている。近年はSNSなどで、赤く色づく大カエデが広く知られるようになり、中高年層が中心だった参拝者の中に、若者や外国人観光客の姿が目立つようになったという。見頃には少し早かったが、秋のやわらかな日差しに誘われて寺を訪ねた。 【写真】秋色に染まる境内
たちのぼる炎のように
福岡、佐賀の県境にそびえる雷山(955メートル)の中腹にある雷山千如寺。寺によると、1800年以上前にインドから招かれた僧が開き、長い歴史を刻んできた。最盛期には300の坊があったとされ、千如寺はこの僧坊の総称である。
境内に入ってまず目に飛び込んでくるのが、寺の顔にもなっている樹齢約400年の大カエデだ。高さ8.2メートル、幹回り2.3メートルの県指定天然記念物で、大悲王院を建立した際に、福岡藩主の黒田継高が植えたと伝えられる。
今年は長引いた暑さの影響で、紅葉が1週間ほど遅れているそうだ。日の当たり方などによって進み具合も異なるそうだが、訪れた11月13日の時点で6割程度だろうか。それでも大カエデを見上げると、空に向かってたちのぼる炎のようにも見えた。
扇のように枝が四方に広がる大カエデ。建物の縁側から、畳のある部屋に移って庭を振り返ると、横切る人のシルエットをアクセントにして、1枚の絵画のような秋のパノラマが広がっている。
15年ぶりに訪れたという糸島市の岡田文枝さん(64)は、縁側に座って娘と2人で大カエデをながめ、「まだ少し時期が早いようだけど、緑、黄色、赤のグラデーションが美しいですね」と笑顔を見せた。
あたたかな五百羅漢像
寺には鎌倉時代後期(約700年前)の作で、蒙古襲来後の異国降伏の祈祷(きとう)に関係するといわれる国指定重要文化財「木造千手観音立像」がある。室町時代に造られた心字庭園、境内を彩る約200本のカエデなど見どころは多い。
その中でも、ひときわ目を引くのは、山の斜面に並ぶ500体の「五百羅漢像」だ。羅漢とは釈迦の教えを広めた聖者たちのこと。高さ80センチ前後の石仏はどこかユーモラスで、あたたかい顔がずらりと並ぶ。 その時の見る者の心持ちによって、笑っているようにも、泣いているようにも見えるという羅漢。亡くなった父母や友人、あるいは自身に似た顔の石像を探しているのだろうか、様々な思いを重ねるように、静かに手を合わせる人の姿もあった。