昭和の〝あぶない記者〟も共感「帰ってきた あぶない刑事」 タカ&ユージは〝正しく〟ルールを破ってくれた
映画はないものねだりのメディアである。胸ときめく美男美女のロマンスも、荒唐無稽(むけい)のスパイアクションも、想像もできないVFX映像満載のSFも、人は現実には存在しない何かを映画に求め、感じ、追体験するのだと思う。その「ないもの」が本当に切実に欲しいものであるならば、映画は多くに受け入れられる。大ヒット中の「帰ってきた あぶない刑事 ABUDEKA IS BACK」を見て、自分が立てたこの仮説があながち間違っていないと思えた。「あぶ刑事」には、現代人が心底欲する「ムチャクチャ」いやもとい「本当の正しさ」が存在する。 【写真】「帰ってきたあぶない刑事」のイベントでレッドカーペットを歩く柴田恭兵、浅野温子、舘ひろし、仲村トオル
ハリウッドとの比較 ナンセンス
物語はこうだ。タカ(舘ひろし/1950年生まれ)とユージ(柴田恭兵/51年生まれ)という元刑事2人が、ニュージーランドから8年ぶりに戻った横浜で探偵事務所を開設した。そこに24歳の彩夏(土屋太鳳)が母を探してくれとやって来る。母親は、タカとユージの元恋人ではないか?という展開になる。だが、母親を探すうち、3人はカジノ開発にからむ大事件に巻き込まれることに。しかも、悪人グループの中に彩夏の母親、つまりタカ&ユージの元恋人らしき女性を見かけてしまう。悪人グループは、利権のために横浜で爆破テロを計画。タカ&ユージは、爆破阻止と母親奪還のために命を張って立ち向かっていく……。 本作と、資金物量をつぎ込んだこの手のハリウッド製アクション映画とを、直接的に比べるのはナンセンスである。迫力やスピード感、VFX映像が全く違う。見るべきところはそこではない。「このオジさん2人が、格好良すぎる。この面白さは一体何なんだ!?」に尽きるのである。
爆走、拳銃、ダジャレまで
言うまでもないが、昭和末期の1986年にスタートしたテレビドラマ「あぶない刑事」(日本テレビ系)の派生映画で、2016年1月公開の「さらば あぶない刑事」以来8年ぶりの映画版である。映画の時間経過でも「さらば」から8年後の設定なので、タカ&ユージはともに60代後半の設定になろうか。そのオジさんが、昭和の価値観のまんま、現代の横浜の街を疾走爆走暴走し、拳銃もショットガンも撃ちまくり、殴る蹴るの末、ダジャレを飛ばすという、暴挙を繰り広げるのだ。あ、たばこだけはなかった。あとは、知らなくても構わない過去の引用とパロディーがてんこ盛り。シリーズ初見のほとんどの人は、突然挿入される中条静夫の「大バカ者!」にドン引きするだろう。この手法からして昭和である。 つまり、すべてが懐メロ。だが、懐メロはそのまま流しても誰も聴かない。時代に合わせたアップデートが必須である。本作はそれが図に当たったのだ。70年前の「ゴジラ」を「山崎ゴジラ」がアップデートできたように、38年前の「あぶ刑事」を現代の環境にフィットできたのだ。監督の原廣利は父親がテレビ版を監督していた2代目である。どこかに「勘」があるのだ。脚本の大川俊道、岡芳郎も60代のベテランで、締めるところ緩めるところのツボを心得た展開を書き記した。今のデジタルジャングルに、2匹のアナクロな野獣を置いても違和感のない、説得力のある台本を書いたのは脱帽である。