年齢制限で新人王は逃したベストイレブン、武藤の次なる夢とは?
意志あるところに道は開ける――。アメリカ合衆国の第16代大統領、エイブラハム・リンカーンが残した有名な言葉は、今シーズンの武藤嘉紀(FC東京)のためにあったと言っていい。 9日に横浜アリーナで開催された年間表彰式「Jリーグアウォーズ」で、ルーキーの中では唯一のベストイレブンを受賞。まばゆいスポットライトを浴びたタキシード姿の22歳は、はにかんだ表情を浮かべながら両親、クラブ、これまでに自分を教えてくれた指導者へ感謝した。 「素晴らしい選手にまじって選ばれたことを嬉しく思います。今年はプレッシャーとの戦いが多かったけど、それに負けることなく自分のパフォーマンスを出せたことは自分自身が成長した証だと思うし、今年だけと言われないように、しっかりと努力して今年以上の成績を残していきたい」 ワールドカップ・ブラジル大会でJ1が中断していた約2カ月の間に、FC東京は所属する選手にキャリアパスを設定させている。キャリアパスとは経営学用語のひとつで、次のように定義される。 「仕事の経験やスキルを積みながら自らの能力を高くしていくための順序を系統立て、将来の目的や昇進およびキャリアアップのプランを具体化する」 選手個々が提出したキャリアパスをもとに面談した立石敬之強化部長によれば、キャリアパスはその選手がメンタル的に自立しているかどうかのバロメーターとなるという。 「目の前の結果に一喜一憂することなく、コツコツと目標を積み上げていける選手が上(のステージ)へ登っていけますよね」 そして、中断明けにブレークを果たす武藤のキャリアパスには、こんな言葉が綴られていた。 「10ゴール、新人王、日本代表入り」 慶應義塾大学経済学部に籍を置いたまま、体育会サッカー部を3年次で円満退部。ユースまで在籍したFC東京の門を再び叩いた武藤だったが、開幕戦からレギュラーに抜擢された前半戦は数多くの決定機をお膳立てしてもらいながら、2ゴールに甘んじていた。 大学までの攻撃的MFからFWにコンバートされたが、ストライカーに必要な感覚をつかむまでに悪戦苦闘した。中断期間中にはマッシモ・フィッカデンティ監督が個別指導を実施。「あれが自分のとってのターニングポイントになった」と武藤は笑顔で振り返る。 「マッシモ監督が自分の弱みを改善するトレーニングを伝えてくれたので、そのおかげで中断明けに自信を持ってプレーすることができた。具体的にはシュートの仕方。FWに必要な要素というか、前線での動き出しというところまで指導してもらった。おかげで得点も増え始めた。いまの自分があるのは、ホントにマッシモ監督のおかげだと思っています」 シュートは弾度を低く抑え、かつ強く蹴る動きを徹底した。毎日のように繰り返された練習で手応えをつかんだのか。キャリアパスには「10ゴール」と「新人王」をまず書き込んだ。 「1年前はFC東京でレギュラーをとれればいいかなと。10点という目標も、普段自分が掲げないような大きな数字としてあげたので、それをクリアできたことでこの1年は本当に充実していましたし、予想以上の結果が出たんじゃないかなと思います」