ヤマハ「YZF-R1」などの型式指定申請時の「不適切」とは何だったのか? 国交省は何を検査しているのか
型式指定申請の要件として実施される騒音試験は、生産車両のエンジンを始動して測定するだけでなく、市場に送り出された後も騒音基準が基準内に収まっているかどうかが問われています。 測定前に一定の条件でエンジンを回し続けて、いわゆる劣化を再現する試験準備調整(同社で言うコンディショニング)を行ない、その後に排気騒音を測定します。同社は、このコンディショニングの段階で「誤った判断をした」と話します。 「YZF-R1」のように高回転、高出力のエンジンでは高い熱を持ちます。そのためコンディショニング中の一定条件を保つための測定装置とマフラーをつなぐパイプジョイント部分が「熱によって試験器具が溶損する事態が生じた」ことで、騒音測定の見直しを迫られました。 騒音を抑えるために、マフラーの中にはグラスウール製の吸音材が入っています。同社は説明しています。 「認証担当者はグラスウール製吸音材の耐久劣化状態に影響を与えず、排気圧力・持続時間・試験サイクル数等の試験条件を満たす範囲であれば、試験機器の溶損を避けるためにエンジン出力を変更することは問題ないと誤った判断をした」 騒音試験を行なう前のコンディショニングでは、エンジン回転数を上げて一定の出力を保ちながら、マフラーへの加圧と減圧を2500回以上繰り返す必要があります。パイプジョイントはこの過程で損傷しました。 本来であれば、ジョイント部分を耐熱性の高い部材に交換して再試験すれば良かったのですが、認証担当者は出力を落とすことで発熱を抑えて再試験を行ないました。その考えに至った理由をこう説明します。 「コンディショニングの条件を一部変更しても技術的にグラスウール製吸音材の飛散への影響が無ければ法令上も問題ないと誤った判断をした」
生産再開は、再発防止対策の実効性が評価された後に
国交省は、2024年6月5日に同社に対して立入検査を実施しました。国交省は今後、誤った判断が単に不適切なだけなのか、それとも不正なのかを精査します。また、同時にヤマハに課せられたのは、今後の再発防止策です。 過去の不祥事にも重なるところですが、再発防止策として、同社はいくつか示した対策の最上位に、次のような内容を掲げています。 「試験規程において認証業務と開発業務を明確に区別する」 この不適切な行為の原因のひとつは、会社の体制の問題もあります。開発部門が受験生だとすると、認証部門は試験官です。ヤマハでは「一部の認証業務を開発部門に委託していた」(ヤマハ担当者)と話します。 開発期間をできるだけ短くして、市場に車両を送り出そうとする開発部門の気持ちは、何としても合格を目指す受験生と通じるものがあります。その構造で不適切事案が発生することは、すでに過去の自動車メーカーの不正事案で明らかになっていました。 車両の開発に従事する開発者は、誰よりも車両について熟知しているという自負があります。開発過程で多くの試行錯誤を繰り返すことで、何を変えると、どんな影響が出るかを熟知しているため、認証に対する結果が見えてしまうことがあります。 同社は再発防止の第2に「認証業務の遵法性の担保と維持」と「試験プロセスの重要性と留意事項等を継続的に教育」を掲げていますが、優秀な学生にいくら試験の結果が見えていたとしても、受験生が試験のルールを変えて合格証書を受け取ることはできない。本来は誰にでもわかる単純な話なのです。 しかし、ヤマハの型式指定申請における不適切事案の再発防止で本当に必要なことは、なぜ単純に理解できることが、安易に曲げられてしまったのか、という疑問です。 生産ライン再開の道は、その説得力ある回答にかかっています。
中島みなみ