AI競争の果ては人類の破滅か トップ投資家たちの熾烈な争い
「自分たちを規制してほしい」
ここまでに登場した3人のビリオネア投資家は全員、今年、米フォーブスの「世界のベンチャー投資家ランキング(ミダスリスト)に選出されている。ホフマンは8位、コースラは9位、アンドリーセンは36位だ。選出の根拠となる彼らの投資実績はAI分野に限らないが、その影響力が最も強く感じられるのはこの新しい分野である。 ■「自分たちを規制してほしい」 2023年5月、オープンAIのサム・アルトマンCEOが連邦議会議事堂に姿を見せた。上院議会のAIに関する小委員会に出席するためだ。アルトマンのメッセージの主旨は、「自分たちを規制してほしい」というものだった。反対派にとっては、敵の仮面がはがれ落ちた、待ちに待った瞬間だった。その3カ月前のことだ。まだオープンソースで非営利組織だったころのオープンAIを共同で創業し、資金を提供したマスクが、X(旧ツイッター)上で、同社がマイクロソフトから受けた数十億ドル規模の出資を公然と非難した。オープンAIが非営利組織のルーツから、「クローズドソースの、最大限の利益を追求する、実質的にマイクロソフトの支配下にある企業」になってしまったと書いたのだ。 コースラとホフマンからすると──ふたりは少なくとも一度はアルトマンと会って戦略を話し合っているが、それを除けば別々のかいわいで活動している──オープンAIの妥協をいとわない姿勢こそが物事を成し遂げる方法だ。ホフマンが自らの主張を訴える相手は、それがバイデン大統領やフランシスコ教皇であっても、最近よく協力者になっているジーナ・レモンド米商務長官であっても、似通った質問をする。有権者や信者の暮らしはAIによってどのように変わるのか。彼らの仕事はどうなるのか。どんなときにAIのメリットを期待すべきで、どんなときにそのリスクに慎重になるべきなのか。「相手の最大の関心事を理解していること、その部分への対応策を安心して任せられることを示さなければなりません」とホフマンは語る。「政府に働きかける際に“我々の邪魔をしないでくれ”と言うようでは、政府をその関心事の領域で助けることにはなりません」 ホフマンが大切だと考えるのは、多くの市民が──アーティストや学者から財界人や科学者に至るまで──そもそもAIの開発が良いことであるという認識を共有していないかもしれない現実を受け入れることだ。SFのおかげで、AIが暴走して殺人ロボットになり、あるいは超人的な知能をもつようになり、人類を滅ぼそうとするだろうと考える人間は多い。「AIをめぐる懸念には、私も非常に共感できます」とホフマンは語る。「ですがそれでは、“墜落事故をなくす方法がわかるまで、ライト兄弟に空を飛んでほしくない”と言うようなものです。そんなわけにはいきません」