大学で躍動する前橋育英高“21年卒”…コロナ禍直撃でプロ入り断念、選手権予選敗退の絶望、神戸内定MFの存在、4年経て“黄金世代”に
[12.22 インカレ準々決勝 日本大 1-2 新潟医療福祉大 栃木市総合運動公園陸上競技場] 【写真】「絶対に誰だか分からない」「オーラを失った」…ヒゲを剃ったガットゥーゾ氏 2021年春に前橋育英高を卒業した世代は、来春に大学を卒業する。4年を経てJクラブ内定者が多数出る“黄金世代”に成長。日本大FW熊倉弘達(4年/甲府内定)は「群馬県の選手権予選がベスト16で終わった。それがみんなひとつ大きかったのかなと思う」と振り返った。 最後のインカレで50mのスーパーシュートを決めた。熊倉は前もって相手GKが高い位置にいることを確認。後半31分、まだゴールから飛び出していたGKを視野に入れると、センターラインから右足を振り抜いた。「風もあったので振ろうと。フワンとならないようにライナーの球を蹴れればいいと思った。そこだけを意識していた」。強風に乗ったボールは、GKの頭上を越えてゴールに吸い込まれた。 熊倉自身にとっても初めての超ロングシュートで先制したが、日大は終盤の2失点で逆転負け。「相手がガっと出てきたところを自分たちが受けてしまった。相手の土俵で最終ラインが引いてしまって、セカンドボールも拾えない。最後の負け方は……日大っぽい感じでしたね」。今大会4点目となるスーパーゴールは勝利に結びつかなかった。 「自分はチームを勝たせることがひとつの仕事。こういう得点を決めたからといって、チームが負ければまったく意味のない得点。1-0で勝つ試合の得点を決められることが一番。そういう意味では全然足りなかった」 今大会の総括をしながら、熊倉は前橋育英の同期の顔を思い出す。「高校のみんなの活躍を見ていると、稲村(隼翔)、新井(悠太)、(中村)草太、チームを勝たせている選手が多い。もう一個のシュートのところ、チームを助ける部分はずっと意識しながらプロでもやっていくと思う」。同期からの刺激を受け、来季からはヴァンフォーレ甲府でプロキャリアをスタートさせる。 熊倉と、日大でともにプレーする双子の兄・熊倉弘貴(横浜FC内定)は、2021年に前橋育英を卒業した。前述した東洋大DF稲村隼翔(新潟内定)、東洋大MF新井悠太(東京V内定)、明治大FW中村草太(広島内定)は同期。ほかにも北陸大MF村田迅(金沢内定)、中央大GK牧野虎太郎(長野内定)と、前橋育英21年卒から多くの選手が来季からJリーグの舞台に上がることになった。 才能ひしめく黄金世代だが、その一方で高卒でプロに行ったのはヴィッセル神戸に加入したMF櫻井辰徳(現鳥栖)のみだった。高校2年次にエースナンバー14番を着け、世代別代表にも招集されていた櫻井はいち早く神戸の練習に参加。翌20年9月には神戸への加入が内定した。だが、ほかの選手たちは3年次にコロナ禍が直撃した。ポテンシャルの高い選手たちは練習参加の声こそかかっていたが、未曽有の事態に振り回されることになった。 「高校のとき、(Jクラブの)練習参加は自分も含めて誘われていた。だけどコロナの影響で、Jリーグ全チームで練習参加ができなくなった」(熊倉) 前橋育英の選手たちはさらに絶望を味わう。20年10月18日、第99回全国高校サッカー選手権群馬県予選の3回戦。県6連覇していた前橋育英は桐生一高に2-3で敗れた。「前育は“絶対全国”と周りから見られているなかで……その順位で終わったんかと」。熊倉らは最終学年で多くの機会を失った。それでも未来への希望は持ち続けたという。 「(県予選敗退から)みんなこのままじゃ足りないということがわかった。そのなかで櫻井は高校から代表で活動して、常に上を目指していた。俺たちは大学で別れたけど、上に(櫻井という)存在がいることは大きかった」 大学に進学すると、同期たちは徐々に頭角を現していった。中村は大学3年次に関東大学リーグ1部で得点王とアシスト王に輝き、今シーズンも2年連続でW受賞。キャプテンとして明大を2年ぶり8度目の優勝に導いた。新井は3年次に東京V内定が決まり、その年には特別指定選手としてJリーグデビューと初ゴールも果たした。稲村も3年次に新潟行きが決まると、今シーズンは特別指定選手ながら新潟の主力としてルヴァン杯決勝進出にも貢献した。 熊倉も同期に続いて来季からの活躍を見据える。双子の兄・弘貴との別れは「違和感というか、想像つかない」と惜しみつつ、「ルヴァン杯や天皇杯で対戦するチャンスもある。プロでどれくらいお互い成長しているか」と楽しみにもしている。 「自分は開幕からスタメンを狙っている。1年目は経験と言わずに、チームが勝つための一人の選手になりたい。キャンプから(ポジション)争いが始まると思うので、楽しみでしかない」(熊倉)。大学4年間を経て、大きく成長した前橋育英21年卒。ポテンシャルを開花させた“黄金世代”は、来季からJリーグを盛り上げていく。