「木更津キャッツアイ」に思いを馳せて…櫻井翔がサプライズ登場の「THE3名様」最新作をレビュー
「この漫画おもしろいんですけど、いまここに僕ら3人いますよね」。佐藤隆太が、映画『ロッカーズ』(03)の打ち上げの席でプロデューサーの森谷雄に発した一言から始まった「THE3名様」。その映画第2弾『映画 THE3名様Ω~これってフツーに事件じゃね?!~』が8月30日に公開となった。 【写真を見る】櫻井翔が覆面男役でまさかの出演!“キャッツ”4人が集結し、ミー子こと平岩紙も登場 2005年にオリジナルDVDとしてリリースされたのを皮切りに、舞台化やアニメ版などを挟み、2022年に“復活”を果たして『THE3名様 ~リモートだけじゃ無理じゃね?~』として映画化。1週間限定の予定で公開されたが、結果5週を超える公開となるヒットを記録した。そして今年、FODで初の連続ドラマ化を経てこの映画版も公開されることになったのだ。 ■「THE3名様」が作りだす、3人の心地いい空気感 主演の佐藤隆太、岡田義徳、塚本高史にとって、まさにライフワークともいえる作品といえるだろう。この3人といえば、なんと言っても思い出されるのは、2002年の宮藤官九郎脚本ドラマ「木更津キャッツアイ」(TBS)。元クラスメイトで同じ野球部に所属していた5人が怪盗団“木更津キャッツアイ”を結成する物語。3人も、岡田准一、櫻井翔と共にキャッツのメンバーだった。その仲の良さは画面からもあふれていた。 俳優の仕事は、その現場で仲が良くなっても、その現場限りの仲になってしまうことが少なくない。けれど、彼らは違う。いまだに公私ともに仲がいい。それはもちろん、『ロッカーズ』やこの「THE3名様」のように共演が続いたという理由もあるだろうが、出会ったタイミングや境遇が重なった奇跡的なものだったに違いない。また、感情をぶつけ合ったというのも大きいかもしれない。 実は彼らは「木更津キャッツアイ」の打ち上げの時に、取っ組み合いのケンカもしたことがあるという。塚本が「木更津に行きてえんだ!」と打ち上げを抜け出そうとし、岡田が「打ち上げ中だから行っちゃダメ!」と止めたことからケンカに発展してしまったのだ。同様のことは、地方での撮影中でも起きた。やはり塚本が「もっと遊びたい!」と言うと佐藤が「いや、もう寝たほうがいい」と諭しケンカになった。 まさに「THE3名様」の関係性そのままだ。今回も些細なくだらないことで言い合いになったりケンカになったりしている。それがなんとも心地いいのは、この3人の空気感のなせる業だろう。 ■「物語」はないが、原作マンガに“忠実” 「THE3名様」は、基本的にファミレスで3人がまったり話している、それだけの物語。だから、いくつかの点で誤解されがちだ。その一つが、アドリブ満載なのではないかということだ。 この手の会話劇でアドリブは常套手段。コメディならなおさらだ。それぞれのキャラクターをいかしながら、演者の瞬発力を頼りに、即興劇を生みだす。そのほうが自然で生き生きとした会話になり、笑いになりやすい。普段仲のよい3人ならば、その利点は最大限発揮されるはずだ。しかし、『THE3名様』には、ほとんどアドリブはないという。 そこにはあくまでも役者として演じているんだという、俳優としてのプライドがにじみ出ているようだ。そのために、事前の打ち合わせをしっかりおこない、脚本の段階でアドリブが不要な状態まで練り上げている。 そして、原作を大事にするという意識も垣間見える。やはりこうした、いわゆる「物語」のない話。ならば、設定とキャラクターを借りて、あとは自由に会話をつくるという方向性もあっただろう。むしろ、そうなることのほうが多く、「THE3名様」もそうだと思われがちだ。しかし、彼らはそうしなかった。なにしろ、佐藤隆太自身が惚れ込んで実写化したのだ。 「THE3名様」は思いの外、石原まこちんの原作マンガに“忠実”である。彼らは今回も原作のなかから、実写化したいエピソードを持ち寄ったという。それが不思議なほど重なっていたそう。そこから全体のバランスを見ながら取捨選択し、脚本にしていく。前作の映画から脚本に原作の石原まこちん本人が加わったのも大きい。 さらに特異なのは、本作の原作者であり脚本家でもある石原まこちんが、撮影の現場にもいたということだ。彼が現場にいることで、俳優陣もセリフのニュアンスに迷った時や、言い回しを変えたい時などに直接相談して意見を聞くことができた。原作や脚本の意図と齟齬が出る作品になってしまう場合、大抵はコミュニケーション不足が要因だが、「THE3名様」にそれはありえない。原作のエッセンスが、そのまま濃厚に注入されている。そんな原作の空気感と3人の空気感が重なり合うことで、実写化ならではの化学反応が起きているのだ。 ■あまりにもエモーショナルな盟友・櫻井翔との共演 今回の映画版で目を引いたのは、全編ユルい話のなかに仕掛けられた緻密な構成だ。すべてが、最後のエピソードの“伏線”のようになっている。そして、これまで事件らしい事件が起きなかったファミレスにタイトル通り、ある“事件”が起こる。そんな展開もワクワクするのだが、なによりも“事件”なのが、櫻井翔の登場だ。言うまでもなく「木更津キャッツアイ」でバンビを演じた盟友だ。 4人の久々の共演は、あまりにもエモーショナル。これまでもずっと一緒にいたかのような息のあったやりとりだった。これを見せられたら、最後のピースも…、と夢が広がってしまう。彼らにとってはもちろん、多くのドラマファンにとって「木更津キャッツアイ」は大事な作品だ。その思いがなくなることはない。「THE3名様」の3人にとっても、彼らが入り浸るファミレスは、大事な場所だ。映画ではそれを守るため3人は、3人なりのやり方で“戦う”。見終わると温かい気持ちになると共に、自分にとっての大事なものに思いを馳せ胸が一杯になった。 佐藤隆太、岡田義徳、塚本高史の3人は、ある“約束”をした。そのことを佐藤は「THE3名様Ω メガ盛り」に収録された対談でこう明かしている。 「この先、歳もとるし、もしかしたらほかのことに興味を持つ人が出てくるかもしれない、誰かが役者をやめる可能性もあるわけじゃないですか。 万が一、そういうことがあったとしても、この 『THE3名様』を撮る時だけは、絶対に戻ってこようって」 20代のころからファミレスで駄弁り続けて、40代になっても変わらず駄弁っている。これからなんらかの障害があったとしても、きっとその場所をいくつになっても守り続けていくのだろうと夢の続きを想像させてくれる映画だった。 文/戸部田 誠(てれびのスキマ)