第154回 直木賞受賞者・青山文平氏の記者会見(全文)
日本文学振興会は19日夜、第154回芥川賞・直木賞の受賞作を発表した。 芥川賞は、滝口悠生『死んでいない者』、本谷有希子『異類婚姻譚(いるいこんいんたん)』の2作が受賞し、直木賞は青山文平『つまをめとらば』が受賞した。 【中継録画】第154回 芥川賞・直木賞 受賞者3人の会見 受賞者の3人はによる者会見の模様をTHE PAGEで生中継した。
銀のアジ、生きているアジを書きたい
司会:続きまして直木賞を受賞されました青山文平さんの会見を開かせていただきます。青山さんどうぞ、壇上にお上がりください。 青山:よろしくお願いします。 司会:青山さん、それでは最初に一言、今のご感想をお願いします。 青山:なかなか一言では語れないものがあるんですけれども、一言で語るとすれば、当然うれしい。で、特にこの『つまをめとらば』という本で選んでいただいたということが非常にうれしいということです。で、なんでその『つまをめとらば』で選んでいただいたことがうれしいかというと、一言では済まなくなりますんで、じゃあ、一言は、まあ、これでということでお願いします。 司会:はい。それでは質疑応答に移ります。ご質問の方、じゃあ、右の男性の方。 読売新聞:読売新聞のカワムラと申します。受賞おめでとうございます。 青山:ありがとうございます。 読売新聞:最初に年齢の話から聞いて非常に恐縮なんですけれども、星川清司さんに次いで史上2番目の高齢、時代小説作家として再出発されてから5年ですけれども、今長く小説を書いてきて、直木賞という大きな章を受けたことに関する感想と、あとこれから自分が67歳からまたどういうふうに書いていきたいかということを一言伺えればと思います。 青山:確かに67歳で史上2番目というのは私も承知してますけれども、書いてる限りそういう年齢、このスポーツ選手なんかもそうだと思うんですけど、スポーツ選手が現役を続けられるというのはその常にレベルアップしようという、そのレベルアップするために練習を工夫して、そういう自分は今よりも絶対いい選手になりたい、そういうモチベーションがあるから続けられると思うんです。で、それは年齢関係ない。これはもう小説でも同じで書く以上、常に今よりいいものを書きたいと思うわけです。実際、そのもうこの次はもっといいものを、もっといいものを。そういうその気持ちがなければ、とてもこれは結構小説書くっていうのはしんどい作業なもんですから、とても続けてられない。だから、そういう面では67という年齢は、そんなことは気にしてられないということですね。これ質問なって、答えになってるでしょうか。はい。 司会:はい。じゃあ、次の質問。真ん中の眼鏡の女性の方。 朝日新聞:どうも朝日新聞のイタガキと申します。おめでとうございます。 青山:どうもありがとうございます。 朝日新聞:最初、出発、純文学でされて、そのあとブランクを経て、年金が払えないからという、その生活手段と割り切って時代小説を書かれたと思うんですけれども、今日、講評で哲学的な志向の強い方なんじゃないかという印象を持ってます、と宮城谷さんがおっしゃってまして、やっぱりインタビューとかしていても、そういうご性格というかを感じるんですけれども、時代小説に割り切って書いてはいても、そういう評価を受けたっていうことについて、何かご感想があれば教えていただけますでしょうか。 青山:純文学、確かに純文学を40代前半で書いてまして、それから10年やって、で、10年やめて。で、おっしゃるように純文学をやってましたから、エンターテインメントはどういうふうに書けばいいのかっていうことを考えた時期もあったんですね。例えば、時代小説ですから、読む方がけなげな女とか、尽くす女とかそういうのを読みたいというニーズがあるんであれば、それに応えるのがエンターテインメントなのかなというふうなことを考えたこともありましたけれども。で、先ほどその『つまをめとらば』を選んでいただいたことがうれしいというのはまさにそこに関連してまして、今はそういうことを全然考えてない。それがその『つまをめとらば』なんですね。純文学とかエンターテインメントとか、そういうことを考えてないです。 これ、ちょっと長くなっちゃっていいでしょうか。今、自分が考えてるのは、言葉で言えば銀色のアジを書きたいと。銀色のアジというのは2つの意味がありまして、まずアジ。アジというのは大衆魚と言われてますから、私が書きたいのはそういうその、私は時代小説とはいっても18世紀後半から19世紀前半のそういう時代小説の書き手なんですけれども、つまり、戦国と幕末は抜けてるわけなんですけども、アジを書きたいからなんですね。大衆魚を。あんまり有名人には興味がない。信長とか秀吉とかああいうのにはあんまり興味がないと。 で、もう1つのその銀色っていうのは、アジっていうのは青魚と言われるわけですよ。サバとかイワシとかサンマとか、そういうのと含めて青魚と言われてるんですけども、10年ぐらい前に生命原色という言葉が結構話題になったことがあるんですけど、ご記憶の方はいらっしゃるでしょうか。生命は命の生命ですね。原色というのは原色です。原と色の原色です。で、生命原色というのは生きているときの色なんですよ。アジが青魚と言われるのは、あれは死んだ状態で青魚になる。で、水族館行って泳いでいるのを見るとアジってのは銀色ですね。 だから、銀色のアジを書きたいというのは、生きている色を書きたいということです。よくアジは青魚だよねと、サンマは青魚だよねと、そういうことを了解しては、それはだけど死んだ世界なんですね。本当は銀色なんです。だから、そういうその、それが生命原色なんです。生きてる、だから、生きてるからこういう色が出ると。で、その生命原色を表現するのに小説というのは素晴らしい手段なんですね。これは論文でもなんでも生きてる、人間の生きてる状態というのはなかなか描きにくいと思う。これが一番描きやすいのが小説という手だてだと思います。ですから、私は今、生きてるからこそ出る色、そういう銀色のアジという物語を書きたい。 で、それがですね、だから、迷いがなくなったということはあるんですね。エンターテインメントだから、純文学だからっていうことじゃなくて、とにかく銀色のアジを書こうと。で、それが初めて、だけど自分に書けるかなと思ってたんですが、それが初めて、そのレベルはともあれ書けたんじゃないかと思ったのがこの『つまをめとらば』です。だからこれを選んでいただいてうれしい。これからもこの方向性でもっともっとこの、先ほど言ったように書いてる限りは年、関係なく、もっといいものを書きたいというのはこれはもう、書き手である以上、当然のことですから、もっともっと、あるいはその銀色じゃないかもしれない、もっと違う色かもしれない、もっときめ細かく見れば。そういうものを書いていきたいと思っています。はい。ちょっと長くなりました。 朝日新聞:すいません。続けてもう1ついいですか。すいません。そういうわけでご受賞されまして、直木賞を取りますと結構本が売れたりもすると思うんですけども、その最初の目的であったたくさん本を売って生活を、っていう目的もあったと思うんですけども、今回のご受賞でそれが人気作家への登竜門といいますか、なると思うんですが、その意味での喜びの声といいますか、教えていただけますか。 青山:まあそれは67ですから、喜びは候補に選んでいただいたときのほうが、候補に選んでいただいたときに、ああ、これで3年食えると思いましたよね。とりあえず、にのうえの候補になれば3年間は注文があるかなと。で、あと私の年代ですから3年食えるとかなり死ぬ時期も近づいてくるんで、かなり安定期に入るという。ですから、今というよりも候補に選んでいただいたときのほうが、そういう意味では。 で、その今、なんか質問を先取りしちゃいますけれども、直木賞に選んでいただいたというのは、無名の書き手にとって、直木賞とか芥川賞というのはこれほどかけがえない、重い賞はないわけですよ。私は今まで6冊本を書いてますけど、一番少なかったのが3,500部ですね。初版3,500部。で、初版だけですから、これは半年かけて書いたものが3,500掛ける150円っていくらぐらいですか。60万円いくかいかないか。それ、年間書いたら年収120万円ですから。あれ、何を言おうとしたんだっけ 。 そういうお金のこともさることながら、初版3,500、5,000というのは一般の郊外の書店には並ばない部数です。ですから、私の本を見たことないっていう方はずいぶん、結構たくさんいらっしゃると思う。で、そういう3,500、4,000、5,000、そういう部数の本を万、あるいはそういうその皆さんに見ていただける、そういう店頭に並ばせる賞というのはこれのみだと私は理解してますけれども。3,000、4,000を全ての書店の店頭に並ばせる賞というのはこの賞だけで、書き手にとってはこんなにありがたい、かけがえのない賞はないと私は理解してます。