旧ジャニーズ激怒し紅白出場を“固辞”…Nスペ「ジャニー喜多川特集」放送後に起こっていること(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)
【週刊誌からみた「ニッポンの後退」】 私は年末のNHK紅白歌合戦を見ないことに決めた。 【写真】喜多川氏からの性被害を告発した元フォーリーブス北公次 旧ジャニーズのメンバーが出ないからではない。出演交渉の過程でNHKが今もなおジャニーズの“支配下”にあることが明らかになったからである。 会長の稲葉延雄は10月16日の会見で、ジャニー喜多川による性加害の被害者たちへの補償交渉や再発防止の取り組みを評価し、紅白を含めた出演交渉を開始すると発表した。 だが、ジャニーズ側は補償交渉の詳細についてはつまびらかにしていないし、藤島ジュリー景子が退いたといっても、いまだに隠然たる力を持っているともいわれている。それなのに会長自らが紅白に出てくださいと“哀願”したのだ。今年の流行語を使っていえば「ふてほど(不適切にもほどがある)」ではないか。 だが、このトップのラブコールを断ち切ったのが、その4日後に放送されたNHKスペシャル「ジャニー喜多川“アイドル帝国”の実像」だった。そこでは紅白を担当して最高7組のジャニーズグループを出演させた元NHK理事で、その後ジャニーズ事務所、現在はスタート社顧問をしている若泉久朗を直撃。「なんで僕なんですか。しかも仲間じゃないですか」という言葉を引き出し、NHKとジャニーズの癒着構造を可視化してみせた。 さらに、被害補償に当たる「SMILE-UP.」の担当者が、ジャニー喜多川からの被害を訴えていた初代ジャニーズの故・中谷良の姉に対して、「誰が何を謝るんだというのが、ちょっと今わからなくて。心の底からおわびできない」という暴言を引き出した。 私も少し顔を出して、メリー喜多川が体を張って弟のことを守ったエピソードや、「タブーはメディアが作り出す」という発言が取り上げられていた。インタビューは7月だった。 9月半ばにディレクターの中川雄一朗から「月末29日に放送する」という連絡がきた。だが、ジャニーズ側が補償問題について発表し、それを受けて会長が会見するので、放送はその後になると再び連絡がきた。私は、それを聞いて、上と揉めているのではないか、放送するのは難しいかもしれないと思った。 しかし、中川をはじめとするスタッフたちはくじけなかった。番組の最後に、NHKがスタート社所属タレントの出演依頼を可能にしたと入れたのは、上層部のジャニーズに対する弱腰への批判と、我々は抵抗するという意思表示だったと思う。 反響はすさまじく、今年放送したNスぺの中でも断トツの視聴率だったという。だが、ジャニーズ側は激しく反発した。紅白には一人も出さないとNHK側に通告した。そんな相手側の無礼なやり方に異を唱えないばかりか、NHK局内ではジャニタレの起用は時間の問題だとみられているというのだから驚く。 天下の“国営”放送が見くびられたものである。それは民放も同じだ。間違いなく崩壊しつつあるジャニーズ帝国を支えているのは、放送人としての矜持(きょうじ)を捨て去った不甲斐ないメディアなのだ。 「ジャニーズが一人も紅白に出なかったのはNスぺが影響したのか?」と番組関係者に聞いてみた。「そうだと思う」。「番組に中止圧力がかかった?」「それはなかったが、現場の雰囲気はよくなかった」。そして、「この問題をこれからやるのは難しくなった」とも言った。 NHKの中にわずかに残っていたジャーナリスト魂に視聴者は喝采を送った。NHKは視聴者たちの声を無視せず、いっそ、今後はジャニーズのタレントを一切起用しないと宣言してみたらどうか。それでこそ「皆さまのNHK」の本来のあり方であり、視聴者からの信頼を挽回する絶好の機会だと思う。 (文中敬称略) (元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)