水稲害虫「イネカメムシ」の越冬地の謎 ススキの株元で生息か
防除は2回、出穂直後と8日後に
「10アール当たり30~60キロの減収を余儀なくされた。イネカメムシによる不稔が大きな原因だった」 岐阜県本巣市で、水稲約100ヘクタール栽培する安藤重治さん(48)は、昨年の被害をそう振り返る。同害虫が自身の水田にいることを確認した。「ここまでの被害は初めて」と打ち明ける。 昨年、主食用米は防除したが、飼料用米はコスト削減のため見送ったため、被害が多発したとみる。 JAぎふが提供する防除時期などの情報を活用しながら、今年は飼料用の防除も計画する。「薬剤も準備した。去年を教訓に被害を抑えたい」と話す。 効果的な薬剤散布の時期はいつか――。農研機構の石島力上級研究員に改めて尋ねると、「不稔被害を防ぐには、出穂期直後が効果的」との回答を得た。 同機構が参考にするのは山口県農林総合技術センターによる調査結果。山口市で米「コシヒカリ」で実証調査したところ、出穂期5日前の散布だと不稔率は41%だったが、出穂期当日の散布だと9%にとどまった。散布なしは57%だった。出穂期当日に散布した方が不稔率は低かった。 さらに石島上級研究員は「防除は2回が基本」と強調。出穂直後の成虫防除に加えて、成虫が水田で産んだ卵からかえった幼虫による斑点米発生を防ぐため、8日後にもう一度散布する。成虫、幼虫の二段構えの防除を促す。 水田に飛来してくる成虫の防除適期を逃さないため、飛来の有無や時期の把握に動き出す地域もある。昨年、被害が多発した鳥取県は今年、JA鳥取西部などと協力し、複数の調査地点を設定する。 田植え後の水田に粘着板を固定し、出穂期に入る7月中旬以降、飛来の有無や時期を確認する。複数年、調査を重ね、注意報の発信や適期防除の呼びかけに利用する考えだ。 同県は「通常の防除回数では稲を守り切れないことも想定される。追加防除を促す根拠にもしたい」(病害虫防除所)と調査の狙いを説明する。(高内杏奈)
<メモ>イネカメムシ
イネカメムシは1970年代後半以降、ほとんど確認されていなかったが、2020年ごろから関東以西で発生と被害が見られるようになった。成虫は茶褐色で体長12、13ミリの大型の斑点米カメムシ類。成虫で越冬する。
日本農業新聞