水稲害虫「イネカメムシ」の越冬地の謎 ススキの株元で生息か
岐阜県の調査に同行取材
米の不稔(ふねん)や斑点米をもたらし、近年各地で発生が増えているイネカメムシは生態に未解明な点が多く、正確な越冬場所も謎に包まれたままだ。各地で調査が進む中、本紙「農家の特報班」は、全国でも少ない月1回の定点調査を続ける岐阜県の調査に同行。まだ広く知られていない越冬場所が見つかっていた。 【写真で見る】ススキの株元で越冬するイネカメムシ 記者が同行したのは、岐阜県病害虫防除所の6月中旬の調査。まだ青い雑草の株元を県職員がかき分けると、それまでじっと動かなかったイネカメムシがもぞもぞと動き始め、青臭いにおいが漂ってきた。「いた! 先月と数は変わらないね」。声が上がった。 そこに生えていた雑草は、ススキだった。 農研機構によると、水田周辺のイネ科雑草の株元で越冬することは分かっていたが、具体的な草の種類ははっきりしていない。そんな中、岐阜県が今年3月から県内の2地点14カ所で月1回、越冬地の調査を始めると、複数のススキの株元で同害虫が確認された。同防除所防除指導係の今井啓司係長は「ススキが越冬地の一つになっている可能性が高い」と指摘。「水稲の出穂前まで株元に潜み、その後、水田に飛び立っているのではないか」と考える。 県内では2020年産米で広く不稔が発生。同害虫の影響を疑い、同県は翌年から越冬地の調査を始めた。今後は越冬量と、出穂期以降に水田ですくい取った量から発生量を予測する予定。水田までの移動経路や飛来時期、防除のタイミングを見極めるためにも、定点調査でデータを収集する。 複数のススキの株元などで越冬が確認されたことで「今後、調査地点を設定しやすくなる」と今井係長は話す。 農研機構で同害虫の研究に携わる石島力上級研究員は、岐阜県がススキの株元などで越冬を確認したのは「今後の越冬地特定を前進させる成果」と話す。「越冬量など、複数年のデータを集め、生息密度が高い場所を突き止めることができれば、防除にも生かせるのではないか」とみる。 「悪夢が再び訪れないように……」。昨年、大きな被害を受けた米農家は、同害虫の飛来が始まる出穂期が迫る中、警戒を強め、防除の準備に余念がない。