トランプ関税が米国のエネルギー安全保障を揺るがす矛盾、原油は「掘って掘って掘りまくれ」とはならない
■ 関税めぐりカナダが原油輸出税で対抗か トランプ氏は、「規制緩和を通じて増産を図り、原油価格を下げる」としていることから、OPECプラス(OPECとロシアなどの大産油国で構成)の関係者はトランプ政権の誕生を懸念している(12月18日付、OILPRICE)。だが、幸いなことにOPECの心配は杞憂に終わると思う。 原油価格の下落は採掘コストの上昇に悩む米国の石油企業にとって逆風であり、10年前と異なり、採算割れの危険を冒してまで、トランプ氏が主張するように「掘って掘って掘りまくれ」となるとは思えないからだ。 筆者が注目しているのはカナダに対して関税を25%課すとの主張だ。 米国の原油輸入量は日量700万~800万バレル、そのうち約6割(約400万バレル)がカナダからだ。一部の製油所は安価なカナダ産原油に依存しており、代わりの選択肢はない。カナダ産原油に25%課税すれば、米国内のガソリン価格が高騰するため、除外措置が講じられるだろうが、そうは問屋が卸さなくなっている。 ブルームバーグは12月13日、「自国の工業製品に関税を課された場合、カナダ政府は原油などに輸出税を課すことを検討している」と報じた。オンタリオ州のフォード首相も「自州の工業製品に関税が課された場合、生産している電力の米国への輸出を停止する」と警告している。 関税措置はトランプ氏が掲げる米国のエネルギー安全保障の向上(エネルギードミナンス)を大きく後退させてしまう深刻な副作用をはらんでいるのだ。 このように、トランプ政権の公約は勇ましいが、矛盾が多い。しかも予測不可能だ。世界の原油市場に悪影響が及ばないことを祈るばかりだ。 藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー 1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。
藤 和彦