トランプ関税が米国のエネルギー安全保障を揺るがす矛盾、原油は「掘って掘って掘りまくれ」とはならない
■ 米国・イスラエルとイランが全面衝突する可能性は? 石油輸送に携わるロシア船の事故も発生している。黒海とアゾフ海を結ぶケルチ海峡で15日、ロシア船籍の小型タンカー2隻が荒天のため座礁し、同地域で過去最大規模の環境災害が起きるとの懸念が生じている。難破した2隻は建造から50年以上が経過しており、事故当時、合計6万2000バレルの石油製品を積載していた。ロシアの海上石油輸送に対する西側の制裁が徐々に効いていることの証左だろう。 イランの原油輸出も低調になっている。11月の原油輸出量は前月比52.4万バレル減の日量131万バレルだった。イスラエルとの緊張の高まりが輸出価格を押し上げたため、大口の買い手である中国の独立系製油所が買い控えたからだ。 原油市場は反応していないが、中東情勢は一向に安定する気配がない。 シリア人権監視団(英国)は16日、「アサド政権崩壊後のシリアでイスラエル軍が行った空爆は470回を超えた」と発表した。イスラエル政府はシリアから奪取し併合を宣言したゴラン高原の入植者を倍増させるとしており、これに対し、サウジアラビアやカタールが猛反発している。 ハマス、ヒズボラの弱体化に加えアサド政権が崩壊したことで、イランが主導してきた「抵抗の枢軸」は崩壊寸前だ。イスラエル軍は19日、最後の一角となったイエメンの反政府武装組織フーシ派に対して攻撃を行うとともに、指導部の暗殺を警告している。 イスラエル紙は14日、「イスラエル軍が制空権を握ったことでイランの核関連施設に攻撃する可能性が高まった」と報じた。 米ウォール・ストリート・ジャーナルも13日、「トランプ次期大統領はイランの核兵器製造を阻止するため、空爆の可能性を含めてイランへの対応を計画している」と報じており、米国とイスラエルがイランと全面衝突する可能性は排除できなくなっている。そのような事態となれば、原油価格は再び100ドル超えになってしまう。 就任前にもかかわらず、世界の原油市場はトランプ氏の言動に早くも揺さぶられている。