ないものねだりは罪ですか…わが子の障害克服を願う親は葛藤する。「違う環境なら…」。支援教育充実へ離島の声に県はどう応える
発達障害の子どもたちへの指導や支援を含めた特別支援教育がスタートして今年で18年目となる。学校関係者や保護者らに広く知られるようになり、特別支援学級などで学ぶ児童生徒は急増。教員不足や学びの質といった課題も見えてきた。鹿児島県内の現状を報告する。(シリーズ・かわる学びや@鹿児島~特別支援教育の今=10回続きの⑤より) 【シリーズ「特別支援教育の今」を初回から読む】まさか自分の子が…かつて無理解だった特別支援学級は今、急速に増える。上限8人の小所帯。「ここが、この子の居場所」
徳之島町の女性(40)は昨秋から、小学4年生の次男に学習障害(LD)の検査を受けさせている。月に一度、専門医が島を訪れるのに合わせて複数回受けたが、その後は悪天候などで延期が続く。最終検査のめどは立っていない。 特別支援学級(支援級)に在籍する次男は文字を書くのが苦手で、注意欠陥多動性障害(ADHD)も抱える。就学前は、島内の療育施設で体幹などの発達支援を受けた。感謝しているが「違う環境ならもっと成長させられたのでは」との思いもぬぐえない。 より体制の整った鹿児島県こども総合療育センター(鹿児島市)に通わせたいが、町の移動費助成には回数制限があり、何度もは難しい。「いつでも相談できる環境がほしい。専門家が常駐してくれたら、さらに子育てしやすくなるのに」 ◇ 県教育委員会によると、特別支援学校(特支)がない離島で小中学校の支援級に在籍する児童生徒は、5月1日時点で徳之島が最多の206人。屋久島103人、沖永良部島100人、与論島36人、喜界島34人と続く。
県は2023年度、それまで大島特支(龍郷町)などから各島の小中高校や幼稚園へ巡回相談に出向いていた離島特別支援教育コーディネーターを徳之島、沖永良部島、屋久島に1人ずつ配置。3島での巡回数は、今年1月までで22年度の3.8~5.5倍に増えた。 徳之島担当コーディネーターの林和美教諭(57)は10月上旬、伊仙町の犬田布小と徳之島町の亀津小を訪問した。支援級の授業を参観し、「教材が多すぎると子どもが集中できなくなる」などと助言した。亀津小の勇(いさみ)富久代教諭(50)は「困った時にすぐ相談でき、一人で悩むことがなくなった」と信頼を寄せる。 コーディネーター配置を鹿児島大の肥後祥治教授(62)=障害児教育=は「施設ありきで考えるのではなく、いかに地域の人材を活用するかという視点も必要。コーディネーターによる巡回指導であれば、すぐに取り組める」と評価する。 ◇ 離島の現状を知ってほしいと、保護者や教員が連携する動きもある。22年に結成された「離島ミーティング」は、今回コーディネーターが配置された3島のほか喜界、与論と本土をオンラインで結び、意見交換や情報共有に取り組む。
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