池上彰と佐藤優が、世界で起きていることを読み解く特別対談「トランプは、いまのアメリカ国民を宗教で分断しようとしている」
ロシアとウクライナの戦いが終わらぬ間に、中東では紛争が勃発し、アメリカではトランプ旋風が巻き起こった。そして日本では再び「大東亜共栄圏」の構想が―混沌とした世界の行く末を読み解く。 【写真】大胆な水着姿に全米騒然…トランプ前大統領の「娘の美貌」がヤバすぎる!
「やられたらやり返す」
池上 いま世界の注目が集まっているのは、中東ですね。イランが在シリア・イラン大使館への空爆攻撃はイスラエルによるものだと主張し、史上初めてイスラエルを直接攻撃しました。 佐藤 4月14日、イスラエルにドローン攻撃をした当日に、イラン政府は国営放送が運営するニュースサイト「Pars Today」に「植民地主義政権イスラエルに対するイランのミサイル・無人機作戦が持つ12のメッセージ」と題する論評を掲載し、イランがイスラエルを攻撃した理由を説明しています。これを読むとイランの意図がよくわかります。 池上 どういう意図でしょうか? 佐藤「やられたらやり返す」という相互主義の原則に基づき、あくまで軍事目標主義の枠内で攻撃を行う―これがイランの意思表示です。つまり、「全面戦争に発展するつもりはない」ということなんです。 池上 なるほど。双方の攻撃は相手方にあまり被害が出ないように、とても抑制されていますね。イランはイスラエルへの攻撃を開始すると同時に、「イスラエルに報復攻撃をした」と発表しました。ドローンはスピードが遅いですから、イスラエルに到達するまで3時間くらいかかる。つまり、「届く前に撃ち落としてくれ」というメッセージなわけです。
世界のルールの大変化
佐藤 実は、今回の事態を招いた要因はイスラエルではありません。アメリカの衰退にあるんです。これまではイスラエルの後ろに強いアメリカがついていたので、イラン国内でイスラエルがテロを行っても、報復できませんでした。 池上 実際、イスラエルの工作員によって、イランの核物理学者が何人も殺されていますね。 佐藤 ええ、それでもイランはアメリカの存在を恐れて、対抗措置をとれませんでした。しかし、アメリカの力が弱くなってきたため、「やられたらやり返す」ことができた。それが今回の攻撃であり、世界のルールの大きな変化を意味します。 池上 一方、イスラエルによるパレスチナのガザ地区への攻撃は相変わらず続いています。ハマスを根こそぎにする方針に変わりはありません。 佐藤 イスラエルの人たちにとって国際世論は怖くありません。恐れているのは神です。「ユダヤ人を撲滅するという政策を掲げ、実行しているハマスに緩い対応をしてきたため、神の天罰が下って攻撃を受けた。だからハマスというシステムを完全に解体せよ」というのが彼らの論理です。「ペリシテ人を皆殺しにしろ」という旧約聖書の原理そのままです。 池上 ガザ地区の出来事は今年11月に行われるアメリカ大統領選挙にも影響していますね。アメリカのZ世代は、ガザ地区で女性や子供が殺されている映像を見て、イスラエルに反感を抱いています。そして、イスラエルを全面的に支援しているバイデン政権にも、「ガザで人を殺すために税金が使われているなんて!」という批判が出てきました。その結果、トランプが勝ちそうな状況になってきたわけです。