日芸映画祭テーマは“声をあげる”、「SHE SAID」「時代革命」「マッドマックス」など上映
日本大学芸術学部映画学科の現役学生たちが主催する映画祭「声をあげる」が、12月7日から13日にかけて東京・ユーロスペースで開催される。 【画像】#MeToo運動が広がるきっかけの事件を映画化、「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」 映画学科の映像表現・理論コース映画ビジネスゼミの学生が主催し、今年で14回目を迎える日芸映画祭。テーマ設定、企画、作品選定、上映・ゲストの交渉、チラシやパンフレットのデザイナー探し、制作、会場運営など、すべてが15名の3年生の主導によって行われている。同映画祭はこれまで「領土と戦争」「移民とわたしたち」など、その時々の社会情勢を踏まえ、学生が重要と捉える問題に目を向けてきた。 今年のテーマは「声をあげる」。企画した意図について学生一同は、ハマスとイスラエルの軍事衝突やロシアによるウクライナ侵攻、そしてそれに声を上げる世界各地の学生の存在を踏まえ、「この現実に起きている問題に対して、目を向けないことへの危機感こそがこの企画の発端である。学生として学びながらも選挙権を持つ社会の一員として、私たちが歴史を受け継ぎつつ現状を直視し、間違っていることに対して『声をあげる』ことはとても重要なのではないか」「世界で起こっている事件を自分たちにも関係のある問題として捉え直し、どのような行動を取るべきなのかを改めて考え直すきっかけにしたい」とつづっている。 今回は、さまざまな形で声を上げてきた人たちにスポットを当てた映画15本を上映。#MeToo運動が世界に広がるきっかけとなった告発事件を映画化した「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」、2019年の香港民主化デモを記録した「時代革命」、パリ郊外に住む若者たちの社会的格差や暴力による葛藤を映し出す「憎しみ」、若きジャーナリストと活動家の学生の間で“正義”とは何かを問う妻夫木聡と松山ケンイチの共演作「マイ・バック・ページ」、ジョージ・ミラーが自分たちの権利を守るために戦う女たちの姿を描いた「マッドマックス 怒りのデス・ロード」などが並ぶ。 また日本映画史に残るドキュメンタリー作品として、小川紳介が成田への国際空港建設を強行する行政に反発する農民と学生の姿を記録した「日本解放戦線・三里塚の夏」、土本典昭が現在も声を上げ続ける水俣病患者たちの最初の闘いを記録した「水俣─患者さんとその世界─」も上映される。これらは作品を観た学生たちが2カ月にわたって議論する中で選んでいったもので、“今、私たちに必要な行動は何か”を広い視野で見つめ直すラインナップになった。 上映決定に際し、宇多丸、重信房子、四方田犬彦からコメントが到着。全文を以下に掲載する。 ■ 日芸映画祭 2024「声をあげる」 2024年12月7日(土)~13日(金)東京都 ユーロスペース <上映作品> 「蟹工船」 「日本解放戦線・三里塚の夏」 「日大闘争」「続日大闘争」 「水俣─患者さんとその世界─」 「憎しみ」 「ソビブル、1943年10月14日午後4時」 「沈黙を破る」 「マイ・バック・ぺージ」 「マッドマックス 怒りのデス・ロード」 「首相官邸の前で」 「1987、ある闘いの真実」 「燃えあがる女性記者たち」 「時代革命」 「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」 ※1日4回、各作品2回ずつ上映 ■ 宇多丸(RHYMESTER)コメント 何しろラインナップの縦横無尽ぶりが素晴らしい。新旧問わず、硬派なドキュメンタリーとビッグバジェットのジャンル映画をあえて並列にキュレーションすることで、より鮮やかに普遍的な問題意識が浮かび上がる……つまり確かにどれも、押しつけられた社会的不条理に対して、もうこれ以上スルーも泣き寝入りもしない!と、「声をあげる」作品なのだ。今この瞬間、この並びで観るからこその、貴重で豊かな鑑賞体験となるに違いない。 ■ 重信房子(著述家・歌人)コメント おかしくないでしょうか? 「ハマースのテロ撲滅」の名でイスラエルのジェノサイドが続き、「自衛権」の名でそれを許す世界。76年以上の占領と⺠族浄化に立ち向かうパレスチナの抵抗の権利はテロではない。 常識や前提を問い、語り、声をあげよう! 今、声を挙げなければ、いつのまにか米・中・ロに囲まれた核戦争勃発の危機の最前線の、この日本の足元から戦争が始まっていくでしょう。「声をあげる」日芸生が主催する映画祭で共に過去を観、知り、声を挙げる一歩としたい。 ■ 四方田犬彦(映画誌・比較文化研究家)コメント Easy to be hardという歌があった。60年代後半、アメリカがベトナム戦争と黒人差別で揺れていた時代に作られ、一世を風靡したミュージカル「ヘアー」のなかの一曲だ。 ハードに、つまり頑なに構えていると、イージー、つまり楽なのよ。ノーといって目を閉じてしまえばいいだけの話だから。そりゃガイジンや社会正義を気にする人はいるけど、あれは特別な人。わたしには関係ない。でも、わたしだって友だちがほしい。ハードでいるだけでいいのかしら。 ここに集められたフィルムは、どこかでこの歌に繋がっている。頑なであってはいけない。自分の知らない人のために声をあげるのだ。 ■ 日芸映画祭 2024「声をあげる」企画意図 今年で14回目を迎える日芸生主催の映画祭のテーマは「声をあげる」。 2023年10月にハマスとイスラエルの軍事衝突が始まって以来、ガザ地区を中心に犠牲者は4万人を超して今も増え続けている。また、2年前に始まったロシアによるウクライナ侵略は、いつ終わるともしれない。11月末、アメリカ各地の大学ではイスラエルに対して反戦を求めるデモが起こり、若者の勇敢な行動として大きな話題を呼んだ。学生たちは、大学に対し、大学基金や授業料を通じたイスラエル軍関連企業への投資を中止するよう求めた。彼らの抗議の声は瞬く間に世界各国に広がり、日本の大学でも東京大学をはじめ、各地で声が上げられている。しかし、それはごく一部の学生に限り、私たちを含む大半は「自分の問題ではない」と静観した。この現実に起きている問題に対して、目を向けないことへの危機感こそがこの企画の発端である。学生として学びながらも選挙権を持つ社会の一員として、私たちが歴史を受け継ぎつつ現状を直視して、間違っていることに対し「声をあげる」ことはとても重要なのではないか。 本映画祭では、これまでに起こった古今東西のさまざまな事件や現在にも通ずる社会問題について「声をあげる」人々を扱った映画に焦点を当て、「声をあげる」とはどういうことかを観客と共に考えたい。土井敏邦監督「沈黙を破る」は元イスラエル兵士が結成した反戦団体へのインタビューから、今まで語られてこなかった加害者側の心情と葛藤を明らかにする。ほかにも、収容所のユダヤ人によるナチスへの反乱と脱走を、壮絶な体験談と収容所の現在の風景によって描く、クロード・ランズマン監督「ソビブル、1943年10月14日午後4時」をはじめ、貧困・政治問題・女性差別などのために抑圧された人々が決死の訴えを起こす姿を鮮烈に映し出した作品を選出した。 この映画祭を機に、世界で起こっている事件を自分たちにも関係のある問題として捉え直し、どのような行動を取るべきなのかを改めて考えたい。映画を学ぶ私たちにとって、こうした映画を集めて映画祭として上映することが、最初の「声をあげる」行為だと信じている。 映画祭企画学生一同