辻沢杏子、女優人生まだこれから 夫の介護と幸せ
「離婚おめでとう」花束で迎えてくれた大先輩
そして95年に、最初の結婚をした。 「元夫は人形屋さんだったの。老舗のお店に嫁いだので、家業を手伝うために3年間、完全に芸能活動をお休みしたんです。会社の役員をしながら雛人形を作っていたのよ、私。合わせの色をコーディネートしたりして楽しかった。でも、お店は借金しながら回していたから、バブルが弾けた後で、利子だけ返してもらえば良いという条件だったものが、突然銀行から元本も返してくれと。それで倒産したんです。元夫も、お互いそれぞれの人生を歩んで行こうと、協議離婚しました」 芸能界に本格復帰すると、昼ドラ「いのちの現場から」(TBS系)に出演した。主演の中村玉緒が花束を持って「離婚おめでとう」と迎えてくれたという。 「そんな玉緒さんが、私はもう大好きでね。玉緒さんと出会って、お芝居が変わりました。玉緒さんは、カメラが回る5秒前まで、関係ないおしゃべりをしているの。共演しているうち、私もそのスイッチングができるようになったんです。泣くシーンでも笑うシーンでも、15秒ぐらい前から集中していると、カメラが回ったときには集中力が欠けちゃうというか。だから、それが出来るようになったのは嬉しいですね」
脳梗塞で倒れた夫の介護が幸せ教えてくれた
その後も時代劇に現代劇、さまざまなタイプの作品に出演しキャリアを重ねて、いま57歳になる。昭和から平成、そして令和と時代は移り変わったが、現場の様子も変化してきたと感じるそうだ。 「芝居の内容が全然違うから。昔は人間模様が中心のドラマが多かったでしょう。いまはもっとトレンド的におしゃれだったり、デジタル的な表現だったり、LGBTの恋愛ものだったり。それがいけないという意味ではなくて、時代の流れとともに人間が織りなすものも変わってきちゃいますよね。だって今、お涙頂戴みたいなドラマやったって観てもらえないでしょうし、時代劇も少なくなっちゃった。昔ながらの苦労話はなかなか受けにくいですよね」 これからやってみたい役を聞くと「鬼ばばあのような悪役」と、笑った。 「絶対に自分にないところにトライ出来たら楽しいんじゃないかなって。今はありがたいことに、温かいお母さん役とかいただいていますが、ひとつ新しいことができたら、殻がまたひとつ破れるのかなって思うし」 プライベートでは、2005年に現在の夫と結婚した。25歳上の実業家だ。悠々自適で公私ともに充実……と思いきや、2年ほど前に夫が脳梗塞で倒れた。介護の日々が始まった。 「この2年、ちょっと大変でした。どうしていいのかわからないってことが、たくさんあって。納得しないと気が済まない性格だったから。泣いたり、笑ったり、怒ったり落ち込んだり。でも、すべてを完璧にやるのは無理って開き直ってからは前向きに、気持ちも楽になりました。介護する立場でもいろいろなことを経験することによって、毎日生かされているんだなあと実感。何気ない日々がありがたく、今一番幸せを感じています」 いろいろなことが降りかかってきた人生だが、実は幸せは常に足元にあった。それを実感できた今、辻沢杏子は女優として新たな境地へ向かう。 (取材・文・撮影:志和浩司)