「格差シャッフル」が起こらなくなった日本。恋愛・結婚格差はなぜ起きているのか?【牛窪 恵さん】
おひとりさまは「大変そう」「あまり幸せそうじゃない」
牛窪:それ以外にも、「ひとりで生きていくことへの不安」もあるでしょう。例えば、今の40~50代のおひとりさまは、若者たちの目には「大変そう」「あまり幸せそうじゃない」と映っていることも多い。対する結婚は、現代ではリスクヘッジにも繋がります。どちらかの仕事が立ち行かなくなったときでも、夫婦共働きなら支え合える。そうした経済的な部分と、心理的な安心感の側面も大きいだろうなと思います。 ――安心感という点で言うと、女友達同士が繋がっているとか、ご近所で繋がっているということでも得られる気はしますが、それでも結婚にこだわる理由があるんでしょうか? 牛窪:結婚というのは、やはり1対1の「契約」なんです。その契約形態にこだわることで、互いに裏切らない約束というか、生涯を通じて「オンリーワン」と感じさせる効果はありますよね。特に日本の場合、不倫をすると社会的に散々叩かれますが、それは「結婚したら裏切らない」という前提が強固に根付いている裏返しでもあります。入籍が一つの拘束力を持つ、家族の絆は揺るぎないとの概念が、良くも悪くも見え隠れします。
出会いの機会は増えても「出会いリスク」が上昇
――こうして聞くと、結構周りからや社会全体のプレッシャーというのも大きいですね。純粋な“自分由来の動機”は意外とそんなに大きくないというか。 牛窪:データで見ると、日本は「事実婚」が数%しかいないんです。日本社会の風潮として、結婚という契約形態を選択することで、周りからも「あの人は結婚している」と認識される。「結婚を望む若者」が8割以上いるのも、一つはそうした効果や影響を重く見ている部分があるからだと思います。 ――多くの人が結婚したいと思っている一方で、周りが口を揃えて言うのが、「出会いがない」ということです。自然に出会えたらそれが一番いいけれど、職場は既婚者ばかり。仕事でも出会いがない。だから仕方なくマッチングアプリをやっている、という人も多いです。実際、出会いの機会は減っているのでしょうか。 牛窪:「本当に出会い自体が減っているのか?」という大前提の部分でいうと、実際は「むしろ多すぎて選べない」状態だと思います。インターネットやマッチングアプリの進化で、今はSNSやアプリで誰とでもすぐ知り合いになれますし、他者にアクセスする手段は格段に増えています。だから、出会いの数自体は以前に比べれば遥かに多いはずなんです。 ただ、たとえ同じ職場で働く同僚のことを「いいな」と思っても、今は気軽に食事に誘うこともしにくい環境です。気軽な感じでLINEをしたいけれど、一歩間違えばSNSで「こんなこと言われた」と晒されるかもしれない。「恋愛リスク」以前に、ストーカーなど一方的に思いを寄せられる「出会いリスク」もあります。「一緒にご飯食べない?」というちょっとした声かけも、下手をしたらハラスメント扱いされてしまう現代では、出会いそのものがないというより、出会ってもあえて深い関係になるのを避ける、だから恋人関係になりにくい、と言うほうが正しいでしょう。