猛暑で弱る日本のコメ 品種改良で乗り越えた富山産「富富富」
23年の猛暑は普及への機運も一気に高めた。開発直後はコシヒカリの1等米比率もまだ高く「従来のコシヒカリでいい」と生産者への浸透スピードは緩やかだった。卸売業者や消費者のニーズが急に変わることはないため、それまで売れてきたモノをつくり続けたいという意向が強いためだ。 当初は「この品種は売りにくい」と評価が低かった県外バイヤーも、現在では「販売を増やしたい」と話すなど、富富富の評価は着実に高まってきている。他県の農業関係者からも富富富に関する問い合わせは増えているという。 コメに加えて果実類でも高温に強い品種改良が進められている。 例えば農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は、高温に強いリンゴである「紅みのり」「錦秋(きんしゅう)」などの品種を世に送り出している。例えば紅みのりは、高温に伴う着色不良や果肉軟化に強い品種だ。 温暖化に対応した品種の開発・改良は早いもので00年ごろから着手してきた。だが、「温暖化が進んでいく中で開発のゴール自体もより高くなっているのが現状だ」と、農研機構農業環境研究部門の長谷川利拡エグゼクティブリサーチャーは打ち明ける。「当たり前にスーパーマーケットに並んでいる生鮮食品が、今後は消えてゆくかもしれない」。こう話す農業関係者もいるほどだ。 農産物のチェーンを見ると、上流側は品種の開発から生産、そして下流に行くと流通や消費といった段階がある。温暖化をはじめとする極端気象の下で供給網(サプライチェーン)や流通網を回し続けるには、上流側の努力だけでは立ちゆかない。 気候や気象の変化で最終商品にどのような影響が出ているのか。その上でその商品を中長期的に存続させていくためには何が必要か。それらを上流、下流を問わず理解することが、極端気象時代を生きていく企業にとっての第一歩となる。
生田 弦己