アゼルバイジャン機墜落、「ロシア防空システムが原因」との指摘 「仮説」広めないようロシアは警告
アンリ・アスティエ(BBCニュース)、コヌル・カリロワ(BBCアゼルバイジャン語編集長) アゼルバイジャンからロシア南西部チェチェン共和国に向かっていたアゼルバイジャン航空の旅客機が、カザフスタン西部で墜落し、38人が死亡した事故の原因をめぐり、ロシアの防空システムに迎撃されたとの見方が浮上している。ロシア政府は26日、事故原因に関する「仮説」を広めないよう警告した。 墜落事故をめぐっては、一部の航空専門家から、アゼルバイジャン航空機がチェチェン共和国上空を飛行中、防空システムに迎撃されたとの見方が示されている。アゼルバイジャンの親政府メディアは、ロシアのミサイルが墜落の原因だったとする当局者の発言を報じている。 この事故では乗客乗員67人のうち38人の死亡と、29人の生存が確認された。 アゼルバイジャンは26日を、国を挙げて犠牲者を追悼する日とした。 「アゼルバイジャン国民にとってとてつもない悲しみとなった、大きな悲劇だ」と、イリハム・アリエフ大統領は述べた。 ■ロシアの防空システムが原因か ロシアの首都モスクワでは、クレムリン(ロシア大統領府)のドミトリー・ぺスコフ報道官が、「(事故)調査の結果が出る前に、何らかの仮説を打ち出すのは間違っている。我々は当然、そのようなことはしないし、誰もするべきではない。調査が完了するまで待つ必要がある」と述べた。 カザフスタンの主任検察官は後に、事故調査はまだ結論に至っていないと述べた。 しかし、アゼルバイジャンのメディアに出演したコメンテーターの中には、ロシアが旅客機の撃墜を認めることを、アゼルバイジャン側は期待しているとする人もいた。 アゼルバイジャン政府の厳しい管理下にある、いくつかのテレビチャンネルは26日、ロシアに事故の責任がある可能性を公然と語る専門家たちのインタビューを放送し始めた。 AnewZチャンネルは、予備調査では、旅客機にロシアの防空システム「パーンツィリS」の地対空ミサイルの破片が当たったと結論付けられたと報じた。 別の親政府ウェブサイト「Caliber」は、政府筋の話として、旅客機が故意に攻撃を受けたとは誰も言っていないが、アゼルバイジャン政府はロシアから謝罪があることを期待していると伝えた。 この報道について問われると、アゼルバイジャンの主任検察官の事務所は、あらゆる可能性について調査中だと、BBCに述べた。 アゼルバイジャンは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領をいら立たせたくないとみられる。そのため、ロシア政府が旅客機の撃墜を認めない限り、アゼルバイジャンがロシアを直接非難するのは非常に難しいだろう。 アゼルバイジャンとカザフスタンの当局者で構成される事故調査委員会は、おそらくすでに、ロシアの防空システムが関与していることを示す証拠をつかんでいるとみられる。それでもまずは、ロシア側がそのことを公表するのを待っていると思われる。 公表すれば、ロシア政府は複数の疑問に答えなければならなくなる。軍事行動が行われている領空を閉鎖していなかったのはなぜか、旅客機をアクタウに向かわせずにできるだけ早く着陸させなかたったのはなぜなか――などだ。 ■「鳥と衝突」とロシア、専門家は「防空ミサイル」の可能性を指摘 旅客機はチェチェン共和国の首都グロズヌイに向かっていたが、霧が発生したため進路を変更して飛行していたと、アゼルバイジャン航空はBBCに説明した。 生存乗客の1人はロシアのテレビ局に対し、パイロットは濃霧に見舞われたグロズヌイ上空で、2度着陸を試みたが、「3度目に何かが爆発した。(中略)機体の外板の一部が吹き飛んだ」と語った。 旅客機は東に459キロメートル離れたアクタウの空港に向かった。墜落の様子をとらえた動画には、旅客機が滑走路の3キロメートル手前で、高速で地上に向かって飛行する様子が映っている。墜落した機体からは炎が上がった。 カザフスタン当局がフライトデータレコーダーを回収し、調査を進めている。墜落から間もなく、ロシア国営テレビは、旅客機は鳥の群れと衝突して墜落した可能性が高いと報じた。 しかし、この種の衝突事故が発生した場合は通常、航空機は最寄りの空港に向かって滑空するものだと、航空アナリストのリチャード・アブラフィア氏はロイター通信に語った。「航空機のコントロールを失うことはあっても、(衝突の)結果として、進路を大きく外れたりはしない」。 リスク・インテリジェンス企業「Sibylline」を経営するジャスティン・クランプ氏は、機体内外の損傷パターンから、グロズヌイでのロシアの防空活動が墜落を引き起こした可能性があると指摘した。 「破片の形状をみると、機体の後方と左側で防空ミサイルが爆発したようだ」と、クランプ氏はBBCラジオ4に語った。 ロシア南西部チェチェン共和国は今月すでに、ウクライナのドローン(無人機)攻撃を複数回受けている。隣接するロシア・イングーシ共和国の当局は、ウクライナでの戦争が始まってから同地域が標的になったのは初めてだとしている。 近隣のロシア・北オセチア共和国ではドローン攻撃があり、ショッピングセンターが被害を受け、女性1人が死亡したと報じられている。 カザフスタンで墜落した旅客機の乗客の大半はアゼルバイジャン人で、ロシアやカザフスタン、キルギスからの乗客もいた。 動画には、事故機の残骸の中からはい出てきた生存者や、負傷している人が映っている。 負傷者は病院に搬送された。アゼルバイジャンのアゼルタック通信は26日、負傷者のうち7人は首都バクーに戻ることができる状態だと伝えた。 アゼルバイジャン航空は、事故機は10月に全面的な整備が行われ、技術的な不具合はみられなかったと、記者団に説明した。 エンブラエルはブラジルの航空機メーカーで、安全性で高い実績を残している。 (英語記事 Russia warns against 'hypotheses' after Azerbaijan Airlines crash)
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