中村時広・愛媛県知事に聞く(全文3)「地方分権、聞かなくなったが必要」
財源移譲が進まない現状「国と地方の役割分担が必要」
── 今、国のことに触れられましたが、知事の場合は、国会の経験があって、市長の経験もあります。いろいろな立場から、その人口減少を見ることができる立場なのかなと思うんですけれども、今人口減少という課題に向き合うときに、国と地方自治体の業務の切り分けといいますか、そういった点で課題に感じているところはありますか。 感じているというか、ずっとこれは早くやらないと、と思っているんですが、皆さんだいぶ、言葉を聞かなくなったと思うんですけれども、地方分権という言葉なんですね。これはどういうことかというと、今までのこの国のシステムというのは、戦後の荒廃した状況から限られた財源で立ち上がらなければいけなかったわけですよね。 しかも、そのときの一番のテーマは、社会基盤をどう整備していくか、道路であったり、上水道であったり、下水道であったり、いわば生活していくための最低限の基盤をどう整備していくかということを全国あまねくやるという、これが目的だったんですね。ですから、そういった状況の中では、国に全てを集中させて全国あまねく同じような政策をやるというのが非常に効率的だった。これが中央集権という体制でした。
でも、十数年前から、国はもう財政状況が極度に悪化して、僕が国会をやっていたときは、国債発行残高が200兆円だったんですよ。今もう1,000兆円を超えているんですよね。一体どうやれば、これを返せるのか、問題なく着地できるのか、誰も答えを持っていないですよ。何とかこれ以上増えないようにしないといけないぐらいのレベルでしか議論されていないですから。 となると、もうこの構造自体が無理があるということで、地方の政策まで、国は財政面からいろいろ考える余力がなくなったわけです。地方は地方で、今までのやり方をやってもらうと、金太郎あめみたいなことしかできないと。地方は、それぞれ文化も歴史も自然環境も違いますから、そういう違いにこそ、まちや地域を磨く力があるんだと。だから、個性的なまちづくりをやりたいという、こういう立場だったんです。 国は、財政事情から地方分権、地方のことは地方でやってくださいと。地方は、まちづくりの魅力を輝かせるために地方分権。動機は全く違うんだけれども、地方分権は一緒だったんですね。ところが、この段階では、中途半端なことしか行われていないんです。肝心な権限や財源は全く移譲されていないんです。どうでもいいところはどんどん来ます。 そういう中で、例えば地方は生き残るために、市町村合併をやったり、行政マンの数や議員の数も減らし続けました。議員さんは、地方議員6万人が今3万8000人です。首長さんは、3400人が今1800人です。仕事はどんどん増えています。仕事の減っている国はどうですか。国会議員は減っています? 減っていないでしょう。おかしいんですよ。 何が言いたいかというと、役割分担を明確にしなきゃいけない。それは例えば国だったら、社会保障をどうするのか、教育の基本をどうするのか、安全保障をどうするのか、外交をどうするのかと、やるべきことは明確ですよね。だから、そこに没頭してくださいと。それ以外は現場を知っている地方に委ねてほしいと。その裏づけとしての財源をこちら側に移してほしいということを言い続けているんです。 それをしないと、現場を知らない政策ばかりが広がっていって無駄遣いが増えていくという、このサイクルは止まらないんですよね。だから、早くやるべきではないかなというふうに思っています。