「獣医師の仕事は治療だけではない」…野良猫に避妊・去勢手術し戻す「TNR活動」で殺処分は大幅減少
熊本市の竜之介動物病院・院長の徳田竜之介さん(63)は2016年の熊本地震発生直後、ペットと飼い主を一緒に受け入れる避難所を院内に開設した。預かったいくつもの小さな命を救ってきた獣医師の信念は「動物の治療を通じて、飼い主の心もケアすること」。この思いを胸に今も第一線に立ち続ける。 【写真】開業30年を迎えた竜之介動物病院
獣医師の仕事は動物の治療だけではないと考え、1999年から取り組んできたのが、野良猫に避妊・去勢手術を施し、元いた場所に戻す「TNR活動」だ。繁殖を防ぎ、殺処分を減らすことを目的にしている。
2015年からコロナ前までは、熊本県内外の獣医師らに協力を呼びかけ、集中的な運動も展開。手術件数は多い年で約3300件、累計は約1万4000件に上るという。
活動は猫の殺処分減少につながっている。県動物愛護センターが、猫の引き取り数を減らしたことも一因だが、14年度は1814匹だった殺処分数が、22年度は17匹にまで減少。県愛護推進課の井史博課長は「野良猫が増えると、フン被害だけでなく、畑を荒らしたり、生活空間に居座ったりする。こうした民間の活動はありがたい」と話す。
高齢者施設に犬や猫を連れて行き、入所者らと触れ合う取り組みも、病院開業時から続ける活動の一つだ。九州動物学院の学生も参加しており、これまでの開催回数は200回を超えるという。
動物による癒やしの効果は大きく、表情の乏しい人が犬と一緒にいると笑顔になり、日頃、口数が少ない人が犬に向かって名前を呼びかける場面も。「動物は人の心にすっと入り込み、思いやりや優しさ、命の尊さを教えてくれるのです」
開業から30年となるが、まだ走り続けるつもりだ。「ペットは家族の一員にはなれたが、まだ、社会の一員としては認められていない」。この溝を埋めるため、動物の命の尊さを伝えることが自身の役割だと思っている。「動物と人は、社会の中で支え合っている。動物のために働くことが、人のため、そして社会全体を良くしていくことにつながる」と信じている。