江口のりこ「主人公の桃子に共感する方も多いのでは」森ガキ侑大監督「桃子の姿が今の時代とリンクした」ベストセラー作家、吉田修一の小説を映画化『愛に乱暴』【インタビュー】
江口のりこ「主人公の桃子に共感する方も多いのでは」森ガキ侑大監督「桃子の姿が今の時代とリンクした」ベストセラー作家、吉田修一の小説を映画化『愛に乱暴』【インタビュー】 3/3
-素っ気ない態度を見せる夫の真守はもちろんですが、悪気なく桃子を傷つける義母・照子(風吹ジュン)との微妙な関係も、桃子の焦燥感を際立たせていました。演出にあたって心掛けたことは? 森ガキ 「こういうことがあって、こうなりました」と、きっかけになる出来事をわかりやすく描くのではなく、その人物がその時点で置かれている立場に従ってお芝居すれば、そこは表現できると思っていました。 -特に印象的だったのが、いつものように「お義母さん、ゴミあります?」とゴミを回収に行った桃子に、照子が「いつも悪いわね」と渡した後、パタッと勝手口を閉める場面です。照子にとっては何気ない行動が、桃子に疎外感を抱かせる様子がリアルでした。 森ガキ あそこも、わざとらしくガチャっと閉めるお芝居をお願いしたわけではなく、風吹さんには「照子は警戒心が強い」「とにかく真守第一で考えてください」とお伝えしただけです。そうすると、それを基に風吹さんも役を作ってくださるので、ただ扉を閉めるだけでああいうお芝居になるんです。 江口 風吹さんには、すごく助けられました。作品についていろんな話もしましたし、風吹さんの提案で台本にない桃子の気持ちをすくい取るシーンが追加され、より深みが出た部分もあります。孝太郎さんやほかの方も含め、素晴らしい共演者に恵まれました。 森ガキ 息子の真守に対する愛情が溢れ過ぎている照子を演じる風吹さんには、『愛に乱暴』というタイトルに関連して、「強すぎる愛の裏には乱暴さが秘められている」というお話もしました。だからこそ、照子は桃子を傷つけてしまうわけです。この作品を通して感じたのは、善と悪が切り離せないように、「愛と乱暴さは表裏一体」ということです。逆に言えば、愛がなければ乱暴さも存在しないのかなと。いろんな物事が表裏一体で成り立っていることを痛感しました。 -その考えが作品に深みを与え、面白さにつながっている気がします。 森ガキ そういう意味では、この映画を桃子と同世代の方だけでなく、ぜひ若い方たちにも見ていただきたいですね。海外の映画祭では、若い方たちの反応もよかったですから。 江口 ぜひ多くの方にご覧いただき、いろんなことを感じ取っていただけたらうれしいです。 (取材・文・写真/井上健一) 『愛に乱暴』8月30日から全国公開。