「賃上げに積極的」も「希望退職者3000人以上」の富士通。“日本の常識”を覆す大胆な施策に要注目
ITベンダーへの脱皮で「社員に求められるスキル」が高水準に
富士通は電機メーカーから脱却し、システム開発や保守・運用へと集中することで収益性を高めてきました。特に2018年に携帯電話端末事業を投資ファンドに売却した2018年以降、営業利益率を高めています。2018年8月期は4.5%、2023年3月期は9.0%まで上昇しました。 2024年3月期はヨーロッパのパソコン事業からの撤退損を計上。営業利益率は4.3%まで低下しました。これは一過性の損失計上のため、今期の営業利益率は8.2%まで高まる見込みです。 富士通は採算性の高いサービスソリューション事業への更なる選択と集中を進めており、半導体パッケージ用基板を製造する新光電気を政府系投資ファンドの産業革新投資機構に売却する予定です。 製造業は組織の仕組み化を進めることで、収益改善を図ることができます。社員が持つ特別なスキルよりも、個人の調整力や各部門・部署にフィットする人材の配置が重視されがち。しかし、ITベンダーは個人のスキルがモノをいう世界。クライアントの課題を見抜いて解決策を提示するコンサルティング能力や最新のプログラミングの知識だけでなく、プロジェクト規模に合致した概算費用を算出することも大変な知識量や経験を求められます。 こうした背景もあるのでしょう。富士通は2020年4月に幹部社員に対して、ジョブ型人材マネジメントを導入。2022年に一般社員4万5000人向けにも適用しました。サービスソリューション事業を成長させるには、能力の高い人材を育成するための仕組みづくりが欠かせなくなったのです。 希望退職者の募集で今年10月に富士通を去った社員は、間接部門の幹部だと報じられています。間接部門とはバックオフィス業務などの直接的に売上貢献をしない部署。事業の成長に必要な分野に特化した人材育成を先鋭化させた動きと見ることができます。
2022年にも3000人規模の人員整理を実施
富士通は期ごとに重点的に取組む施策とゴールを設定。チームとしての目標を重点テーマとして定め、メンバーはそれを達成するために仕事に取り組みます。その中で個人にも目標が設定され、上司との間で月一回の一対一ミーティングを行い、達成状況や認識合わせをします。個人のマネジメントを徹底させているのです。 更に職種と職責の高さで職務を区分し、FUJITSU Levelを設置。この水準に応じて報酬を決定する仕組みが設けられているため、実績に応じた給与が得られやすくなっています。 富士通は2022年にも50歳以上の幹部社員を対象に希望退職者を募集しており、3000人以上の応募がありました。このとき、代表取締役副社長・磯部武司氏は人材構成の変革スピードを上げる必要があるとの認識を示していました。 その言葉の通り、2024年度の新卒採用は800名(実績見込み)、キャリア採用は2000名以上(計画数)。新陳代謝を促している様子がわかります。 富士通は賃上げにも積極的。2024年総合労働条件改善交渉においては、組合モデルの要求ポイントとなる研究開発に従事するリーダークラスの現行賃金水準およそ40万円に対して、1万3000円の賃金水準改善が要求されました。それに対して、満額回答をしています。 組織として必要な人材への投資を加速しているのです。 日本は長らく終身雇用制度が定着していました。富士通はこうした日本の常識に反し、収益性を高めるための仕組みづくりや人員整理を大胆に行うという、新たな道を模索しているように見えます。 <取材・文/不破聡> 【不破聡】 フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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